「只見線」「南阿蘇鉄道」の復旧が遅れた“原因”は何か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
2011年の豪雨災害で不通となっているJR只見線について、JR東日本と福島県が鉄道を復旧して存続させることで合意した。同じころ、16年の熊本地震で被災した南阿蘇鉄道について、政府が復旧費の97.5%を支援する意向と報じられた。復旧決定まで、只見線は6年、南阿蘇鉄道は1年。鉄道復旧に時間がかかる理由は、政府に鉄道専門の財源がないからだ。
鉄道特別会計がないから復旧の機動力がない
国土交通省が「やりたい」と即決しようにも、財務省に資金をお願いしなくてはいけない。道路より鉄道の復旧が遅れる理由の1つは、この手続きに時間がかかるせいだ。公共交通の重要性としての認識の差もあるけれど、“カネと手続き”という要因も大きい。国土交通省は、鉄道に関して機動的に使える資金がない。
他の交通手段、空港、港湾、道路については、国土交通省が機動的に使える予算がある。その背景は既に解体された特別会計にある。空港に関しては1970年度から空港整備特別会計が設置され、道路については1958年度に道路整備特別会計が設置された。港湾も同様だ。このうち、道路整備、港湾などについては、社会資本整備事業特別会計に統合されたのち廃止。空港特別会計は縮小して自動車安全特別会計に統合された。
これら特別会計は国土交通省が所管するお財布であった。その中に鉄道はない。特別会計は、国の収益のうち、目的と使途が明確なものについては一般会計とは別に管理する仕組みだ。空港整備特別会計は空港の着陸料収入などを財源とし、道路整備特別会計は揮発油税などを財源とした。これらは目的の範囲内で国土交通省が運用できる。しかし、2005年に閣議決定された行政改革の重要方針によって、特別会計は縮小、廃止となった。
それでも、特会の実績は国土交通省の予算要求に色濃く残っている。鉄道については特別会計がなく、実績もないため、国土交通省の裁量予算は少ない。新幹線整備費用などが取り沙汰されるけれど、空港予算、道路予算に比べれば、鉄道整備予算は微々たるものだ。国はもっと鉄道整備にお金を使ってもいい。極論すれば、道路予算、空港予算並みに鉄道の予算があれば、赤字の地方ローカル線の維持、JR北海道の経営危機は全て解決できる。
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