「無印良品」がデジタルで生み出す“リアル体験”:顧客満足度向上へ(2/2 ページ)
ITmedia ビジネスオンライン主催のセミナーイベント「顧客接点のデジタル化 競合他社に差をつけろ! 顧客起点に立ったビジネスモデルの実現」では、「無印良品」を展開する良品計画のデジタルマーケティング戦略を紹介した。
ネットと店舗の相乗効果を発揮
特別講演は、良品計画WEB事業部部長の川名常海氏。無印良品のデジタル戦略の歴史や考え方などを語った。
同社がインターネットビジネスに参入したのは2000年ごろ。ネット通販はまだ珍しく、最初は苦戦した。商品戦略や販売戦略が実店舗とは異なり、店舗にとっては「ネットに売り上げが取られる」という感覚。顧客に配布するカタログから、ネットストアの案内部分を切り取ってしまう店長もいたという。
ターニングポイントは03年。ネット戦略を大きく転換したことがきっかけだ。無印良品のWebサイトを閲覧する顧客は増えてきたものの、ネットストアで購入したことがある人はそのうち4割。その比率は今も変わらない。では、購入していない人たちはWebサイトで何をしているのか。最も多いのが、商品のチェックだ。つまり、ネットで調べて店舗で商品を確認して購入している。
「ネットと店舗を行き来している購買行動が見えてきた。そうなると、店舗対ネットという話ではない。2つのチャネルが相乗効果を発揮することが必要だと考え直した」(川名氏)。
実施したのは、現在では「O2O(Online to Offline)」としてよく知られている手法。ネット会員に対してクーポンを発行し、携帯電話にメールで送付すると、多くの顧客が店頭でクーポンを使うようになった。「ネットが店舗への送客につながることが体感できるようになり、店舗でもネットメンバーを獲得しようという動きが活発になった」と川名氏は振り返る。
顧客との関係を深めるスマホアプリ
08年ごろからは、スマートフォンやSNSが普及し、ネットを活用したビジネスの市場も急拡大した。商品購入に至る意思決定のプロセスが大きく変化する中、良品計画のデジタル戦略も進化を遂げる。
「マーケティングで大事にしているのは、なぜ無印を知ったのか、なぜ来店したのかという購買前の行動。そして、もっと大事なのは、売ってからのこと。本当に満足してもらえているか、どんなライフスタイルに取り入れているか。購買の前後を重視しています」(川名氏)。顧客との良い関係を長期的に継続するために、「顧客をもっと理解したい」という思いがあった。
そこで構想したのは、スマホアプリの会員証「MUJI passport」。買い物などで使える「マイル」がたまる仕組みだが、購入すればたまる、という単純なものではない。来店前に商品をチェックしてもマイルがたまる。商品の口コミや改善アイデアなどを投稿するとマイルがたまる。店舗にチェックインするだけでもマイルがたまる。「お客さまとMUJIの関係性を示すマイル」(川名氏)になっている。
特に、手軽にできるチェックインは「みんな大好き」(川名氏)。1ユーザーにつき、平均で月4回程度チェックインするという。店舗から少し離れていてもチェックインできるため、朝は山手線に沿ってチェックインの軌跡ができる。沿線の店舗付近を通過するときにチェックインしているのだ。「実際に来店していなくてもいい。毎朝、無印を思い出してもらえることが重要」と川名氏は話す。
13年にMUJI passportを立ち上げ、現在までに980万ダウンロードを突破。店舗では、約37%の客がレジでアプリを使うという。会員向けセール期間「無印良品週間」には60%程度まで引き上がる。実店舗にも、デジタルマーケティングの手法や重要性が浸透している。
最後に川名氏が強調したのは、デジタルマーケティングとは、「デジタル時代に求められるマーケティング」だということ。顧客がデジタルを使いこなす時代に、Webサイトやスマホアプリなど、デジタルツールだけを最適化しても顧客満足にはつながらない。「守備領域をリアルな接点にまで拡張し、『いい“体験”をつくる』というスタンスが重要」と語った。
関連記事
- 「もぎたて」大ヒットまでの道のりとは?
ITmedia ビジネスオンライン編集部が主催する読者イベント「アクションリーダー学」。第2回目は、アサヒビールの缶酎ハイ「もぎたて」の開発プロジェクトリーダー、宮广(みやま)朋美さんが登壇。ヒット商品誕生までの取り組みを語った。 - 赤城乳業の名物部長が語る「ガリガリ君」秘話
ITmedia ビジネスオンライン編集部が主催する読者イベント「アクションリーダー学」に、「ガリガリ君」のマーケティングを手掛ける赤城乳業 営業本部 マーケティング部の萩原史雄部長が登壇。大ヒットの裏話を語った。 - ヤマトがアジアで拡大! 成功の要因は?
ヤマト運輸がアジアで好調だ。荷物の取扱数を順調に伸ばし、アジアの営業所は既に100を超えている。現地にも競合企業が多数存在する中で、なぜ急拡大できたのか。 - なぜ楽天は二子玉川に移転したのか?
ITmedia ビジネスオンライン主催のセミナーイベント「好業績企業に学ぶ 企業コミュニケーション戦略」が大阪市内で開催。楽天や乃村工藝社がオフィス改革の成功事例などを紹介した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.