利益優先?鉄道愛? 鉄道会社の株主総会報道を俯瞰する:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
「電車の色を変えて」「JR北海道を救って」「あっちの路線ばかり優遇するな」「不採算路線の切り離しを」――これらは鉄道会社の株主の発言だ。株主は会社に投資し、利益の分配を期待する。しかし、株主の中には、利益を生まない改善を要求する提案もある。鉄道会社と株主の関係はどうなっているか。そして今後どうあるべきか。
JR東日本の株主「JR北海道に支援を」
6月23日に開催されたJR東日本の株主総会では「JR北海道を支援すべきではないか」という質問があったと東洋経済オンラインが報じている。JR北海道は一連の事故と不祥事に由来する経営悪化状態にある。今にも路線の半分を整理しようという状況だ。JR東日本はJR北海道に対して人材派遣、新型気動車の共同開発、共同企画きっぷ、大人の休日倶楽部などの提携を実施している。
かねてより、JR東日本とJR北海道を合併してはどうか、という声も上がっていた。ネット上でささやかれるだけではなく、2月28日の参議院予算委員会で麻生太郎財務相がアイデアの1つとして言及していた。麻生氏の発言は、JR北海道の努力不足を挙げる新聞記者は経営をやったことがないという批判の上で出ている。
しかし、麻生氏こそ株式会社の仕組みを理解しているだろうか。赤字のJR北海道との合併は配当低下を招く。黒字のJR東日本の株主にとって了承できる話ではない。しかし、ここにきて、株主側から支援を求める声が上がっている。この株主も、配当利益より鉄道存続を求めている。もっともJR東日本ほどの会社になれば、さまざまなポジションからの発言がある。株主総会の発言権、提案権を得るために株主になったという人もいるだろう。
私もJR東日本の上場時に1株株主となって、後学のために株主総会に出たことがある。少数意見については「参考にいたします」で締められて終わってしまった。そんな質問の1つかもしれない。しかし、全ての株主が利益優先というわけではない、ということも分かった。鉄道を愛する株主、鉄道の可能性を信じる株主も少なくない。少数意見にも真摯(しんし)な態度で向き合ってほしい。
東洋経済オンラインではもう1つ、西武鉄道の株主総会も報じている。西武鉄道も阪神電鉄と同じく野球チームを抱えている。さすがに電車の色を塗り替えてという話はなかったようだ。興味深い話として、「池袋線ばかり設備投資が行われている」と、新宿線沿線住民が不満を表している。池袋線は副都心線に乗り入れるが、新宿線は都心に直通しない。羽田、成田空港アクセスが不便などの意見が出た。
大手私鉄は車内ポスターなどで沿線住民の株主参加を呼び掛けている。株主優待も無料乗車券だから、その恩恵を受けられる沿線の人々にとって、株主になることは魅力的だ。会社側にとっても、株主総会という形で利用者との意見交換ができるという状況は、恵まれた環境と言えそうだ。外資系ファンドより、沿線住民の方が心強い味方。西武鉄道は身をもって体験している。
この連載の前回の記事では、小田急電鉄の株主総会で保存車両の行方と鉄道博物館建設の質問が出たと書いた。コストが掛かる案件を株主が提案するという意味で、阪神電鉄やJR東日本の株主に通じている。しかし、そのコストを稼ぐために頑張れ、という応援の意味もあるだろう。
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