カムリの目指すセダンの復権とトヨタの全力:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
「現行カムリの形」と言われてスタイルが思い出せるだろうか? 実はカムリだけの問題ではない。今やセダンそのものの存在価値が希薄化してしまっているのだ。
さて、こうしてできたスタイルについてトヨタは自信があるようだが、筆者はちょっと同意しかねる。とにもかくにも線の要素が多く煩雑である。フロントグリル、エンジンフード、サイドを見ればガラス下のキャラクターライン。トランクリッドも煩雑だ。しかもリッドから回り込んだラインがCピラーまで食い込んでいる。
モノを固まりで表現しようとしたら、あるいはシンプルにしようとすれば、こうはならないはずで、「個性的にしなくては」という思いが、表層のグラフィックの手数を多くしているように思える。だからデザイナーのプレッシャーが身につまされて息苦しい。ただし、ひたすらコンサバであれと言われてきたこれまでのトヨタデザインに戻ることだけはしてほしくない。この産みの苦しみは必ず帰ってくるはずだ。
と苦言を呈しながら、良かったところも書いておかねばフェアではない。トヨタのデザインのおもしろさは、基本シェープはちゃんとしていることだ。だから対向車線を走ってくるカムリにはハッとする格好良さがある。こう褒めたらトヨタの人が喜んだが、「遠目だとディティールが見えないから」と言ったらずっこけた。クルマのデザインで走っている姿が格好良いというのはかなりの褒め言葉なので、言いたい放題はご容赦願いたい。ただ、このクルマはショールームで眺めるのではなく、ぜひ走っているところも見てほしい。
総評としてカムリは良妻賢母な良いクルマだと思う。そのスタイルが、トヨタが言うほど人々のハートを射貫くかどうかはちょっと分からない。ただ個人的には正しい努力をしたクルマが売れる世の中であってほしい。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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