北朝鮮が攻撃できない、米国も攻撃できない背景:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
北朝鮮が攻撃してくるかもしれない――。何度もミサイル実験を繰り返されると、多くの人がこのような不安を感じるかもしれない。では、米国政府はミサイル問題をどのようにとらえているのか。実は……。
日本ができることは少ない
こんな記事もある。例えば7月22日、時事通信は「北朝鮮の核・ミサイル開発に関連し、米中央情報局(CIA)のポンペオ長官が、金正恩朝鮮労働党委員長の排除を目指す可能性を示唆した」と報じた。この発言はコロラド州で行われた安全保障フォーラムでの発言だが、その「目指す可能性」の根拠となる発言は、ティラーソンの「最も重要なのは、そうした(核)能力から(使用の)意図を持つであろう者を分離することだ」と記事にはある。だが、この発言のどこが、「排除を目指す可能性」なのか。
実際の発言を聞いてみても、ポンペオは「排除を目指す可能性」は語っていない。「分離することだ」という発言を、かなり拡大解釈したものだと思われる。
こうした報道のおかげかどうか分からないが、FNNが行った7月の世論調査では米朝の軍事衝突を73.8%の人が懸念していると答えている。確かに筆者も「北朝鮮は日本を攻撃するのでしょうか」と時々聞かれることがある。
もう1つ言うと、北朝鮮問題に日本はほぼ蚊帳の外だということだ。北朝鮮のミサイル実験が続けられ、日本政府が「遺憾」だと言っても、北朝鮮は日本をちらっと見るだけだろう。国連で声を上げる以外に、日本ができることは少ない。
ここまで書いた通り、米国と北朝鮮のどちらも先制攻撃を決断する可能性は低い。日本政府もそれは分かっているだろう。一方で、どちらにせよ何もできない日本政府にとっては、北朝鮮によるミサイル攻撃や米軍による先制攻撃の懸念は「使える」。危機の雰囲気が広がれば、憲法改正などで抑止力となる体制作りを検討すべきといった印象を広げることができるからだ。
もしかすると、4億円近い費用がかかったと言われているJアラートの政府広報CMも、米軍の北朝鮮に対する軍事攻撃や極秘作戦を示唆するような記事も、実は秋の臨時国会でも議論されるとみられる憲法改正に向けた印象操作の一環だったのかもしれない。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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