組織を引っ張るためには「夢を語るしかない」:夏目幸明の「経営者伝」(3/4 ページ)
自ら事業を立ち上げ、会社を成長させていく起業家たち。彼らはどのように困難を乗り越え、成功を手にしたのか。前回に引き続き、経済ジャーナリストの夏目幸明氏がマクロミルの創業者、杉本哲哉氏のエピソードをお伝えする。
「上場」の副作用
紆余曲折あったものの、無事に資金を得て事業をスタートさせたマクロミルは、5年後に東証1部上場を果たす。上場は起業家の憧れだ。創業社長は自分が持つ株でキャピタルゲインを得ることができるため、多額の資産を手にすることになる。
だが、杉本氏はこの上場によって、カネより重い何かに縛られるようになってしまった。
「上場前までは、オーナーとして事業を好きなようにデザインできたんです。ミュージシャンに例えるなら、シンガーソングライターのようなものですね。しかし上場後は株主の要望に応えなければなりません。四半期ごとの目標を出し、常に成果が求められるようになりました」
ビジョンを実現するために起業したはずなのに、短期での成果が求められ、目先の利益を追いかけなければならない。これでは本末転倒ではないか。
しかも、本来なら秘匿性が高い事業計画を公表せざるを得ないこともあった。どんな機能を実装するのか。それによってどのくらいの売り上げが見込めるのか。現状の課題はどこにあり、どうやって解決していくつもりなのか。株主を納得させるために、説明しなければならない。
「一方、未上場のライバルは発表する必要がありません。これではフェアな競争はできないですよ。上場はベンチャーを育てるために適当な制度だと思えなくなってきました」
杉本氏の心には、次第にコントロールできないモノへの不安が生まれていった。それは、「マネジメント」も同じだった。
杉本氏は、さまざまな能力や価値観を持つ社員たちと、会社の方向性に関する話から、顧客に対する態度まで、徹底的に話し合いながら事業を育てていった。
しかし、事業が拡大すると、さまざまな業界から中途入社の社員が大量に入ってくる。多様性はすばらしい。だがそれは「バラバラ」と紙一重でもある。次第にマネジメントが難しくなっていったのだ。
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