組織を引っ張るためには「夢を語るしかない」:夏目幸明の「経営者伝」(2/4 ページ)
自ら事業を立ち上げ、会社を成長させていく起業家たち。彼らはどのように困難を乗り越え、成功を手にしたのか。前回に引き続き、経済ジャーナリストの夏目幸明氏がマクロミルの創業者、杉本哲哉氏のエピソードをお伝えする。
4億円の出資と「ITバブル」の崩壊
前回お伝えした通り、杉本氏はリクルート在籍中にネットリサーチの事業を着想し、マクロミルを起業した。杉本氏にとって最初の「お金との戦い」はこの創業時に訪れている。
「macromill.comのドメインを取得し『さあ退職だ』といった時期に、その当時は飛ぶ鳥を落とす勢いと言われていたIT企業の役員から電話があり、『すぐに会いたい』と言われました」
ヘッドハンティングだと思い、興味本位で出向いてみた。すると役員の口から予想外の言葉が出てきた。
「『杉本さんは会社を起こすんですか?』と言い出すんです。驚いて『何か知ってるんですか?』と聞くと『それは申し上げられません』と。どこで情報が漏れたのか分かりませんが、腹をくくって事業の構想をプレゼンをすると『ぜひ弊社の社長に会ってほしい』と言われました」
後日再訪すると、とびきりの笑顔で出てきた社長にこう言われた。「君に2億円出してもいい」と。
「さすがに興奮しました。その勢いで、出資が正式に決定したわけでもないのに、出資を要請していた別の会社に寄って『今、2億円引っ張ってきました』とシリコンバレー並のハッタリをかました(笑)。すると『弊社も同額出す』と言い出すのです。その夜、一緒に起業する仲間と祝杯をあげました。『1日で4億だよ!』と盛り上がりましたね」
しかし、その喜びもつかの間だった。システム構築を発注した会社から数千万円の請求書が届くころ、「ITバブル」が終焉(しゅうえん)を迎えたからだ。
ITバブルの崩壊後、2億円を出資してもらう予定だった企業の株価は24分の1以下に下落した。社長とは面会謝絶状態で、声をかけてくれた役員も退任していた。出資を要請していたもう1つの会社にも出資を断られ、結局残ったのメンバーの退職金だけになったのだ。
「あれは本当にピンチでしたね。その後、他から出資を募って資金集めをやり直し、何とか切り抜けましたけど」
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