ロート「スライム目薬」 “かいしんの一滴”の舞台裏:想定以上の反響で増産(2/3 ページ)
想定以上の反響でたちまち品薄状態になり、急きょ増産が決定したロート製薬の「スライム目薬」。スクウェア・エニックスの「ドラゴンクエスト」とのコラボ商品だ。こだわりぬいた商品はどのように生まれたのか? 舞台裏に迫った。
いかにして「ホイミ目薬」は「スライム目薬」になったか
――当初は「スライム目薬」ではなくて、「ホイミ目薬」だったんですね。発売までの3年間は、どのような紆余曲折があったのでしょう。
一番変化が大きかったのは容器の形です。もともと、ロートジーの目薬の容器はスクエア。ですから最初の案は、ロートジーのスクエア容器に、「ホイミ!」というせりふと戦闘シーンのイラストをプリントしたようなデザインを提案しました。ですが、SQEXさんから「もっと大胆なアプローチがほしい」と言われてしまった。ただ、目薬とのコラボ自体は好感触で、違う案を持っていくことになりました。
「ホイミ」という呪文で目薬の爽快さを伝えたいというのは、ロート製薬側の視点では非常にピッタリ来るものでした。ただ、DQファンからすると、そのアイデアだけでは新しさ、驚きを感じさせるものではなかったんですね。SQEXさんが重視するのはDQを支えてくれているファンの人たちが喜ぶコラボであること、そしてこれまでになく新しいと思ってもらえる商品であること。そこで発想の転換やひねりが必要になってきました。
そのときにSQEXさんからもらったアイデアが、スライムをモチーフにしたデザインにするというもの。それを参考にして、ロートで実績のあるスクエアの容器にスライムの顔をプリントして、やや角を丸くしました。ですが、SQEXさんから「スライムにはスライムの形があります。スクエアの容器で表現しても、おそらくファンの人たちの心には響かないでしょう。目薬とスライムという組み合わせは面白いので、いっそのこともっとスライムの形に近づけてはどうでしょうか」というアイデアをもらいました。それが15年ごろです。
――ただ、スライムの形に近づけると、ロートジーの特徴であるスクエア容器からは遠ざかってしまいますよね。その辺りの葛藤はなかったのですか?
もちろん、ロートジーのコラボなので、ブランドの持っているイメージを大事にしたいという意見は出てきました。でも「ロートジーといえばスクエアだ」というこだわりは、新しいお客さんにとっては実はどうでもいい部分ですよね。スクエアにこだわることはブランドのエゴかもしれない。「若者にまず目薬を自分向けのものと思ってもらいたい」と課題に立ち返って考えれば、割り切ってまず使ってもらうことを目指したいと思いました。
それとは別に、スライム型にするとなると新たに金型を起こす必要があり、小さくない投資に踏み切る必要がある――という現実的な問題もありましたね。ロート製薬ではタイアップ自体は積極的にやっていて、「ロートデジアイ」や「肌ラボ」シリーズではキャラクターとのコラボなどをしています。ただ、タイアップで専用に新規に金型を起こすということは前例にない。逆に言えば新しい挑戦ができるともいえます。
「本当にそこまでするべきなのか?」と社内で議論を重ねた結果、「ファンが喜んでもらうコラボに、思い切ってチャレンジしていこう」ということになりました。作っていくうちに、「なぜスライムがロートジーになったのか?」というストーリーも積み上がってきましたね。
――ストーリー?
ゲーム作りの会社であるSQEXさんならではだと感じたのですが、「スライム目薬を作りました」ではなく「スライムが目薬になる必然性」を考えてストーリーを紡いでいくんですね。スライムはゲーム中で序盤に出会う人気モンスターですが、そのスライムが放つ「かいしんの一撃」、その一撃は目薬でいえば、ロートジーの爽快なさし心地に近いのではないか……そんなコンセプトが出来上がり、全てのクリエイティブで使っている「かいしんの一滴」というキャッチコピーが生まれました。
――さまざまな検討やコンセプトの確立を経て、だんだんと商品版の形に近づいてきました。
スライム型にすると踏み切ったあと、SQEXさんの助言もいただきながらよりスライムらしく見えるように改良を重ねていく作業を続けました。スライムの頭の部分をもう少し細くするために新しいキャップを開発したり、丸みの重心を少し下げたり……容器開発の専門チームと一緒にさまざまな試作品を作る日々。
単にスライムに似ていればいいわけではなくて、きちんと工業化できるかも考えていかなければいけない。これまで生産したことがないスライム型に工場の生産ラインが対応できるのか、シミュレーションや検討を重ね、さらに実際に試作テストも行いました。この工程で1年以上かかっていますね。16年の秋ごろにテストをクリアして、容器の形が正式に決まりました。
――これまで容器のこだわりの話をうかがってきましたが、外箱も凝った作りです。
せっかく容器をこだわったのに、箱や説明書が普通だと面白くない。徹底的に「ドラゴンクエスト」の世界観を再現することを目指しました。SQEXさんと一緒になって、箱を開けるとゲームのフィールドになっていて、目薬を置くとまるでスライムが出現したかのように楽しめる……というアイデアで作っていきました。
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