トヨタはEV開発に出遅れたのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
「世界はEV(電気自動車)に向かっている」というご意見が花盛りである。併せて「内燃機関終了」や「日本のガラパゴス化」といった声をよく耳にする。果たしてそうなのだろうか。
トヨタとテスラは何が違うのか?
さて、これを前提に、多くの人が心配しているらしい日本のガラパゴス化について書いていくのが筆者の仕事だ。
結論から言えば、EVについては日本のメーカーには最先端の技術があるので心配はいらない。世界で最大販売数を持つモーター駆動四輪車は何か? それはもうけた違いにプリウスの圧勝である。プリウスはストロング型ハイブリッドである。つまりモーターのみで走れるEV走行モードがある。エンジンと併用したとしても、モーターを使うノウハウについて圧倒的な経験を持っているのだ。ちなみに、トヨタは今年1月にハイブリッドの累計販売数をついに1000万台に乗せた。
世界中のあらゆる環境で実際にユーザーが使用して集められたバッテリー、モーター、制御機構に関する膨大なデータが積み上がり、20年かけてそれらの改善が行われてきたのである。他メーカーとの実証ノウハウの積み上げの差は歴然なのだ。と書いても「いや、プリウスはモーター以外の駆動力があるからダメだ」と言い募る方々には、MIRAIという実績もある。水素燃料電池車と認識されているMIRAIだが、要するに、燃料電池による発電システムを積んだ電気自動車だ。こちらの駆動はモーターオンリーである。
EVにとって重要な技術は何か。それは電気の使い方と駆動力のマネジメントだ。重量あたりエネルギーをエネルギー密度と言うが、バッテリーはガソリンにまったく及ばない。だからこそ限られたバッテリーのエネルギーをどれだけ効率的に使うかが腕の見せどころになってくる。トヨタの場合、専用のバッテリーパックを開発し、重量密度の向上と小型化の両立を根気よく続けてきた。専用だから高価だが、車両への搭載性は当然高く、マネジメント的にも専用化できる。
EVメーカーの代表である米テスラの場合どうかと言えば、パナソニックの汎用筒型リチウムイオン電池18650を採用して、これを大量に並べることで容量を確保している。ちなみに、18650はアマゾンで今すぐ買えるくらいポピュラーな商品だ。もちろん細かく枝番があり、テスラに搭載しているものは、既存の形状を保つことで技術開発のコストを抑えながらも、EV専用にカスタマイズされている。
汎用品を流用するのはクレバーなやり方だ。PCなどで大量に採用実績がある汎用品を使えば、設計不良などは完全に回避できるし、生産の安定性が高いので初期不良の可能性が下がる。サムソンのスマートフォン「Galaxy Note7」の発火事故が多発したが、あれはバッテリーを薄型化し過ぎた結果、わずかな異物混入でも内部電極がショートを起こしてしまうからだ。
つまり専用バッテリーで形状に無理をしすぎると発火の確率が上がるのだ。トヨタのとあるエンジニアに聞いたところ、「あれは燃えて当然です」と苦笑いしていた。そういう膨大なトラブルノウハウを蓄積してきたからこそ、トヨタは専用バッテリーを設計できる。テスラがそういうリスクの少ない、つまり、形状に無理をしていない筒型の汎用品を使ったのは、無理して頑張らないという意味では正解である。また、小型の筒型バッテリーを多数搭載するやり方なら、バッテリー容量をオプションで増加できる。簡単で効率的な手法だ。
純粋なバッテリーの技術に関してはトヨタが上、既存のものを流用してリソースの疲弊やリスクを避けながら魅力的に商品化するという発想の柔軟さではテスラが上ということになるだろう。ただし、テスラもそこにずっととどまっているつもりはなく、パナソニックと共同で米国ネバダ州にバッテリー工場を作り、研究を進めている。
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