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12万枚突破 JR北海道「わがまちご当地入場券」の懸念:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
JR北海道で久々に明るい話題だ。沿線の101市町村と連携して制作、販売する切符の売れ行きが好調。額面は170円、12万枚も発行して2040万円の売り上げとなっている。しかし、地域との付き合い方を失敗すると、JR北海道は信頼を失いかねない。
駅の入場券は、駅構内の立ち入りだけ許され、列車内には入れない。本来の用途は見送りや出迎えである。入場券制度のきっかけは不正乗車だったという。切符を持たずに列車を降りた者が「乗っていない、見送りに来ただけだ」と言い逃れるため、入場した駅を明確にする必要があった。かくして、入場券の券面には駅名が大きく書かれ、それが「駅の訪問記念」として採集趣味の対象となった。
鉄道事業者にとっても「入場券」はおいしいビジネスだ。そこで、やや大きな券面や台紙を使って「記念入場券」も作られる。開通記念、開業○周年記念、新型車両運行記念などだ。小さな紙1枚。美麗なイラストや写真を印刷したとしても経費はたかが知れている。料金は乗車券1区間分で、未使用率は高い。初期費用はかかるとしても、刷れば刷るほど1枚当たりの制作費用は下がって、それが売れたらボロもうけとなる。
「記念入場券」は記念になる事象がないと作れない。しかし、JR北海道が始めた「わがまちご当地入場券」は良いアイデアだと思う。同じアイデアは近畿日本鉄道が2015年8月から実施している。旅した記念に、ちょっときれいな入場券を買おう、という需要がある。当然、採集趣味の対象となる。まるでトレーディングカード商法だ。単価は安いけれど利益率は高い。
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