12万枚突破 JR北海道「わがまちご当地入場券」の懸念:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
JR北海道で久々に明るい話題だ。沿線の101市町村と連携して制作、販売する切符の売れ行きが好調。額面は170円、12万枚も発行して2040万円の売り上げとなっている。しかし、地域との付き合い方を失敗すると、JR北海道は信頼を失いかねない。
「わがまちご当地入場券」とは
JR北海道が販売する、わがまちご当地入場券は、17年4月に発表された。JR北海道の駅がある自治体ごとに1つの駅を選定し、専用にデザインされた入場券だ。対象となる自治体は北海道内100市町村、青森県1町。青森県の1町にあるのは、北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅だ。
入場券の表面は駅付近の鉄道風景写真、裏面は自治体の基本情報、観光地情報、ご当地グルメや特産品の画像などの素材を自治体側が用意する。自治体の負担は素材作成まで。入場券の作成経費はJR北海道が負担する。基本的に売上金の分配はない。
販売方法は、有人駅については駅の切符売り場で、無人駅は駅付近の施設や商店での委託販売となる。委託販売の場合は販売手数料として手当がある。実はここに問題があり、後に述べる。
JR北海道の呼び掛けに対して、対象となる自治体全ての参加が決まり、7月20日にまず81駅の販売が始まった。その後、準備が整った駅から追加され、現在は99駅で販売されている。額面は170円、12万枚も発行して2040万円の売り上げとなっている。同社が必要とする資金に対しては焼け石に水の感もある、とはいえ、こういうアイデアでコツコツと稼いでいくという努力は、どんな企業にも必要だ。
JR北海道としても、単なる旅行記念というだけではなく、コレクターへの販売を視野に入れている。専用コレクションファイルを通信販売するほか、わがまちご当地入場券には応募券がついており、10駅分を集めて送ると「列車カード」がもらえる。列車カードは普通列車、快速列車、急行列車、特急列車の4種類で、10枚ごとにステップアップ、つまり40枚買うと列車カードをコンプリートできる。自治体からの協賛もあり、18年3月末日までの応募者を対象に、抽選で特産品が当たる。
関連記事
- きっぷをカプセルトイで売ってはいけない、なぜ?
JR北海道の新十津川駅で、地元有志が鉄道ファン向けにきっぷを販売した。JR北海道から正式に購入し、「ガチャガチャ」などと呼ばれるカプセルトイの自販機できっぷを販売するというユニークな手法で話題になったが、JR北海道から中止を求められた。これは観光ビジネスにとって教訓になりそうな事例だ。 - JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすな
JR北海道が自社で単独維持が困難な路線を発表した。総距離で1237キロメートル。単独維持可能な線区は1151キロメートル。それも沿線自治体の協力が前提だ。しかし本来、幹線鉄道の維持は国策でなされるべきだ。自治体に押し付けるべきではない。 - 日本の鉄道史に残る改軌の偉業 北海道もチャンスかもしれない
鉄道ファンならずとも、JR北海道の行く末を案じる人は多いだろう。安全を錦の御旗とし、資金不足を理由に不採算路線を切り離す。それは企業行動として正しい。そして再生へ向けて動き出そうというときに台風・豪雨被害に遭った。暗い話しか出てこないけれど、今こそ夢のある話をしたい。 - 夕張市がJR北海道に「鉄道廃止」を提案した理由
JR北海道が今秋に向けて「鉄道維持困難路線」を選定する中、夕張市が先手を打った。市内唯一の鉄道路線「石勝線夕張支線」の廃止提案だ。鉄道維持を唱える人々は「鉄道がない地域は衰退する」「バス転換しても容易に廃止される」という。夕張市の選択はその「常識」を疑うきっかけになる。 - 「札幌駅に北海道新幹線のホームを作れない」は本当か?
JR北海道が「北海道新幹線の札幌駅は在来線に隣接できない」と言い出した。既定路線の撤回であり、乗り換えの利便性も低下する。札幌市と建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が反発している。JR北海道の言い分「在来線の運行に支障がある」、これは本当だろうか。駅の線路配線図とダイヤから検証してみよう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.