12万枚突破 JR北海道「わがまちご当地入場券」の懸念:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
JR北海道で久々に明るい話題だ。沿線の101市町村と連携して制作、販売する切符の売れ行きが好調。額面は170円、12万枚も発行して2040万円の売り上げとなっている。しかし、地域との付き合い方を失敗すると、JR北海道は信頼を失いかねない。
成功の裏にある懸念
わがまちご当地入場券は、駅の訪問記念の意味合いが強い。参加自治体としても、切符を買いに来た人々に地域を訪れてほしい。従って、切符の通信販売はない。それは正しいけれども、「現地で買いにくい」という声が上がっている。かなり残念な状態だ。
現地で買いにくい理由は2つ。ダイヤと窓口の営業時間だ。鉄道駅の入場券だから列車に乗って買いに行きたい。しかし、ローカル線は運行本数が少なく、切符を買うために列車を降りると、次の列車まで何時間も待たなくてはいけない。札沼線の新十津川駅は1日1往復だけだ。それでも新十津川駅のわがまちご当地入場券は、売り上げの上位。これは、並行する函館本線の滝川駅から徒歩約50分、車で約10分だから。列車で新十津川駅を訪問した記念ではなさそうだ。
宗谷本線の美深駅も1日に下り7本、上り8本。そのうち上下3本は特急だ。ここで降りると、その先へ行くにも戻るにも、1〜2時間、あるいはそれ以上待つ必要がある。その間に町歩きを楽しんでほしいという趣旨かもしれないけれど、買い集めようとしても1日に回れる駅は少ない。その結果、ネット上では「クルマで買い集める」という書き込みを見掛ける。駅と列車がリンクしていないという状態は、鉄道会社が実施する企画としてどうなのだろう。わがまちご当地入場券を買うために、停車時間を長めに設定した臨時列車を休日に走らせれば人気がありそうだ。
窓口の営業時間はもっと深刻だ。無人駅や切符販売業務委託駅の場合、委託先が休みだと買えない。例えば、根室本線の豊頃駅の委託先は豊頃町役場で、土日祝日は休みだ。駅業務委託駅も、函館本線奈井江駅、根室本線芦別駅など10駅で土日祝日は窓口が閉まっている。勤め人の場合、有給休暇を取らないと買えない。営業時間も午後5時までという駅が多く、中高生も買いに行けない。委託先が個人商店の場合は不定休である。買いに行く行為が賭けのようなものだ。
JR北海道もこの問題を認識しており、23の駅について、近隣のコンビニエンスストア「セイコーマート」でも販売すると発表した。こうなるとJR北海道の駅巡りよりセコマ巡りの方が楽しそうだと思うのは私だけだろうか。
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