12万枚突破 JR北海道「わがまちご当地入場券」の懸念:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
JR北海道で久々に明るい話題だ。沿線の101市町村と連携して制作、販売する切符の売れ行きが好調。額面は170円、12万枚も発行して2040万円の売り上げとなっている。しかし、地域との付き合い方を失敗すると、JR北海道は信頼を失いかねない。
委託先、自治体との信頼関係は
取扱業者を増やしたら、既存の委託業者の既得権を侵害しないかと心配するかもしれない。これはまず問題ないだろう。委託業者にとって、わがまちご当地入場券には、既得権をかざしたくなるほどの利益はないからだ。
JR北海道が切符を委託販売するときのルールは次の通り。JR北海道が1000枚単位で切符を券面と同額で卸す。ただし実際に提供される切符は1050枚。追加された50枚の売り上げが委託料と見なされる。170円のわがまちご当地入場券の販売を受託する場合、17万円で1050枚を買い、全て売り切れば50枚分の8500円の利益となる。しかし、地方の駅で1日に1000枚も売れるわけはなく、人件費など諸経費を考えれば商売としては成立しない。手売りだから汚損や日付印の押し間違いなどもあるだろうが、JR北海道は交換してくれない。50枚のうちに収める必要がある。
JR北海道管理駅で販売する場合、自治体は裏面の素材を提供するだけ。あとはJR北海道が勝手に作り販売する。だから、JR北海道管理駅がある自治体にとって、わがまちご当地入場券の参加は何も問題がない。しかし、無人駅しかない自治体には切符の簡易委託販売の業務が伴う。手間が掛かって利益は少ない。
委託販売に関わる人からこんな話を聞いた。わがまちご当地入場券が出来上がったので、拠点駅まで取りに来てほしい、と言われた。受託業者は切符を買って列車で行くか、ガソリン代を払って車で行くしかない。たまにJR北海道の担当者がやってきて、ニコニコしながら「売れてますか」などと言う。
JR北海道のためにボランティア同然の商いをしている相手に、これはないだろう。まっとうな商売のセンスがあるなら、出来上がった切符はJR北海道から委託先へ「お届け」するのがスジだし、「売れてますか」ではなく、「売っていただいてありがとうございます」が正しい言葉遣いではないか。
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