アイサイト 分かりにくい誠実と分かりやすい不誠実:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
スバルがレヴォーグに「アイサイト・ツーリングアシスト」を搭載。都内で行われた試乗会でこのツーリングアシストをテストした筆者はとても混乱した。それは……。
1000キロ走って分かったこと
結論から言えば、それは筆者の間違いだった。そのスバルらしからぬ出来に、あまりにも納得がいかなかった筆者は、後日改めてレヴォーグを借り出して1週間で1000キロを走り回った。高速代とガス代で原稿料はマイナスになったが、確かめて良かったと思う。
筆者の根本的な間違いは、これを自動ハンドルだと認識したことだ。ステアリングを握ってさえいれば、脱力して一切操作しなくてもクルマが自動的にステアリング操作をしてくれる。そういうものを期待していた。だから、自車位置がおかしいことに不満が出るし、10秒に1回の警告にイライラする。曲がり率が少しキツくなるとアシストを放棄することも、安請け合いして途中で仕事を投げ出しているみたいに感じた。「これだったら自分で運転した方がいいじゃないか?」。できもしないことをできる振りをするスバルはテスラ側に墜ちたのだとさえ思った。
しかし、1週間乗り続けるうちに、スバルの考えていることが徐々に分かってきた。これは自動ハンドルではない。ドライバーの支援をするものだ。ならば当然ドライバーは自分で運転しなくてはならない。そして、そのドライバーの操作の一部を支援することがアイサイト・ツーリングアシストの目的だったのだ。考えてみれば、スバルはツーリングアシストを「自動運転」だとは一言もいっていない。徹底して「運転支援」だと主張しているのである。
自分で主体的に運転すれば自車位置は自分の意図する位置にキープできて当然だ。そしてその自車位置キープに何らかの事情で一定以上の狂いが出たとき、ステアリング支援が介入する。システムの自車位置特性によって、右方向へのはみ出しは即座に、左方向へのはみ出しは少し大きくなった時にと、その介入タイミングは左右で異なるが、そうやって主体的に運転していれば、当然常時ステアリングを操作するので、警告ランプも点灯しない。曲がり率のキツいコーナーも自分が主体的にステアリング操作をすると途中で放棄することなくアシストしてくれる。
アイサイトと息が合った時は、自分の操作をステアリングアシストモーターが後押ししてくれるので、操作力が軽減される。そして例えばバックミラーに気を取られて前方監視が疎かになったような時には、システムがステアリングを切ってくれる。そのメリットは「一度味わったらもう戻れない」というような鮮やかなものではないが、じんわりとした効果を感じる。現時点での機能がコストに見合うのかどうかは個人個人が決めることだろう。いずれにしてもこれは通過点にすぎない。
つまり、スバルはアイサイト・ツーリングアシストで、「操作を放棄した楽チン運転」を提供する気は毛頭なく、あくまでも主体的に運転するドライバーの「手伝い」をして、安全性を向上させるシステム構築を目指している。システムの裏を書いて「○秒に1度ハンドルを少し切れば、事実上自動運転ができる」という使い方ができないように注意深く作られているのだ。
技術的に見れば、ステアリングモーターのフィードバックが少ない。この手のシステムの中には、ドライバーが意図しないタイミングでシステムがステアリングを切り始めたとき、それを制止するのにかなり力を要するものがあるが、スバルのシステムは、わずかな力で操作するだけでモーターアシストが解除される。それこそが主体的な運転を第一義とする表れだし、自分がステアリング操作をする場面でステアリングが勝手に動く違和感はこの種のシステムとしては少ない方だ。
余談だが、自車位置が左寄りなのは、カメラ判定方式の現状の限界だと言える。路側帯の白線は必ず実線で、車線を跨ぐクルマによって薄くなったりし難い。しかし走行車線と追い越し車線を分ける線は破線であることが多い上、ラインを跨いだ車線変更などによって薄くなっているケースが多い。システムは車線幅そのものを判定するのが苦手なので、車線の中央に位置取りできない。最も車線幅が狭いケースを想定して、より確認のしやすい左側のラインを基準に自車位置を決めることになるから左寄りになると思われる。これはスバルだけでなく他のメーカーも同様だ。
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