トヨタとマツダとデンソーのEV計画とは何か?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
かねてウワサのあったトヨタの電気自動車(EV)開発の新体制が発表された。トヨタはこれまで数多くの提携を発表し、新たなアライアンスを構築してきた。それらの中で常に入っていた文言が「環境技術」と「先進安全技術」である。
というところで、EVの本質論に入ろう。新参入の会社がEVを作ろうとするとき、実は最も難しいのはシャシーである。まともに走り、曲がり、止まるシャシーを新参の企業がいきなり作れるならば苦労はない。テスラだってそうだ。テスラのEVはシャシーをロータスから、バッテリーをパナソニックから、どちらも出来上がったものの供給を受けて成立した。ありものをうまく組み合わせるアイデアに優れていたからビジネスが立ち上がった。
しかし、ロータスにしてもパナソニックにしても、そうやって受け入れられる取引先の数は限られており、千客万来で回せるビジネスではない。リソースがとうに限界に達しているのだ。そうなる前に目を付け、いち早く手を挙げたイーロン・マスクのそれは慧眼であったのは疑いようがない。
シャシーは重要である。しかもすでに中国、米国、欧州、インドなどさまざまなエリアがそれぞれの思惑でEV化へ向けた規制を始めている。異なった規制に対応し、異なったニーズに対応する多品種な商品群が必要だ。短期間で多品種なEVを作らねばならない。マツダが発表したリリースから該当部分を抜き出してみよう。
EVの普及・販売台数は当面まだ多いとは言えない中、求められるクルマ像は地域やニーズにより多種多様のため、各自動車会社が単独で全ての市場やセグメントをカバーするには膨大な工数、費用、時間が必要になるという課題があります
平たく言えば、大した数がはけないEVなのに多品種を用意しなきゃならので利益が上がらないということだ。だからアライアンスの皆で割り勘にしてリスク分散を図るのである。新会社発足のリリースではトヨタ、マツダ、デンソーだったが、すでにダイハツが参加の名乗りを上げており、スバルとスズキがどう反応するかが見物という状態になっている。
排ガスや燃費の面で、水平対向エンジンがやがて消えゆくことが分かっているスバルは吉永泰之社長自ら「スバルらしさはエンジンだと思われることが当社にとって一番マズイ」と発言しており、その中期ビジョンを見る限り電動化の方向へと意識が向かっている。スバルらしさをEVでも発揮したいと考えるスバルはトヨタアライアンスのEV計画に乗るのか、独自開発するのかの間で揺れているが、動力源やシャシーがオリジナルであることで自社のアイデンティティを確立するという考え方では長期的に厳しくなる。環境技術も先進安全技術もとてつもないコストがかかる。だからアライアンスの共有コンポーネンツを使いながら、アイデンティティのある製品、つまりスバルらしい走りのクルマをいかに作り出すかに傾注した方が良い。恐らくそういう結論になるだろう。
スズキはまだ提携の形を模索中である。だがこういう状況になるともたもたしてはいられない。スズキにしてみればダイハツより先に「軽とAセグメントはウチに任せてほしい」と言いたかったはずだ。ダイハツが早急に手を挙げたのはそれが分かっているからだ。スズキは一刻も早く提携をまとめ上げたいと今尻に火が付いていると思う。
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