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命を懸けて鉄道の未来を築いた時代を描く『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

鉄道人情を描く漫画家、池田邦彦氏の最新作は、実在の人物である島安次郎が主人公。島は鉄道の可能性を信じ、国家の骨づくりとして取り組み、奔走した。彼を取り巻く人物や環境を通じて、日本の鉄道史と働く人々の姿が浮かび上がる。作者インタビュー後編。

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機関車を描く、歴史が伝わる

―― 昔の機関車を描くための資料はどうされているんですか。

池田: 岩崎渡辺コレクション(※)と呼ばれる写真群があるんです。それらを紹介する本がいくつか出ています。これは本当に参考になっていて、よくぞ撮っていてくださったと、「岩崎渡辺神社」を作りたくなる(笑)。

※岩崎渡辺コレクション:三菱財閥の創始者、岩崎弥太郎のおいにあたる岩崎輝弥と、銀行経営者一族出身で、東京・谷中で大きなリボン工場を経営していた渡邊四郎。この2人が写真師の小川一真氏を雇って全国行脚し、当時の機関車を撮影した写真の数々。交通博物館所蔵。

―― その写真の機関車を見ると、池田先生の心の中では動き出す。それが先生の手で景色や人々と一体になって描かれる。アシスタントなしでご自身で描かれるそうで。

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『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』裏表紙。蒸気機関車の絵も全て池田先生が描く。アシスタント任せにできないというより、本人が描きたくて仕方ないという印象だった (C)池田邦彦/リイド社

池田: そうです。細かく指示して描かせるより自分で描いた方が早い(笑)。

―― それで身体を壊しちゃうと大変ですよ。ブラックですよ(笑)。でも、気持ちは分かる気がします。先生はストーリーと同じくらい、機関車を描く作業が好きでしょう。

池田: 掲載雑誌『コミック乱ツインズ』は江戸時代を描いた作品が多いので、本物の馬がたくさん出てきますけれど、こちらは鋼鉄の馬が活躍する話です(笑)。蒸気機関車の魅力は怖さでもある。機械がむきだし。触ったら危ない。大きいし。恐ろしい。でも、だから機械は面白い。日本では蒸気機関車が成熟しないまま終わって電化、無煙化になりましたから。蒸気タービンとか外国にはあるんですけどね。この頃は同じ蒸気機関車でもヘンな機械がいっぱいあるんです。物語に関係ないところでも、これから出しちゃおうかな、なんて考える(笑)。

―― 拝読していて、機械をしっかり描くからこそ、関わる人物像が浮かび上がってくる感じを受けました。

池田: 描いている本人は楽しいんです。でも、機械に関しては説明し過ぎても読みづらいので、詳しい情報は各話の終わりにコラムとして入れました。

―― NHKの大河ドラマで、次回予告のあとに出る歴史紹介みたいな。

池田: 本編では、島安次郎が「分からん!」 とか、「なぜだ!」 と悩みます。そこで読者も共感してくれるだろうと。ただし、島安次郎は鉄道官僚としては早くやめてしまうので、この段階でどこまで描けるかなと。日本史でも鉄道史でも、この時期の資料は少なくて、産業史は人物像は出てきませんから。

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