トヨタが販売車種を半数に絞る理由:“いま”が分かるビジネス塾(1/3 ページ)
トヨタ自動車が、国内で販売する車種を半分に削減する方針を固めた。同時に地域別の販売戦略を担当する新しい部署も立ち上げる。トップメーカーであるトヨタは戦後、一貫してフルラインアップの製品戦略を進めてきたが、今回の改革は、同社にとって極めて大きな転換点となる。
トヨタ自動車は現在、国内市場において約60車種のクルマを販売しているが、2020年代半ばまでに半数の約30車種に絞る。販売戦略についても見直しを行い、地域別の販売戦略を担当する新組織を立ち上げるという。
同社の圧倒的な業績は、フルラインアップを基本としたマーケティング戦略に支えられてきたといってよい。トヨタがお手本としたのは、米GM(ゼネラルモーターズ)である。
GMは1920年代、当時、圧倒的なシェアを誇っていたフォード・モーターに対抗するために事業部制を採用。各事業部が利用者層に合わせて独自のブランドを持ち、最適なマーケティングを実施する新しい経営手法を導入した。あらゆるユーザーのニーズをカバーする総合戦略が功を奏し、GMはフォードを抜いて世界最大の自動車メーカーになった。GMの一連の改革は自動車業界における現代マーケティング戦略の基礎となっている。
トヨタは事業部制こそ採用しなかったものの、社会階層に合わせて車種のブランドを構築するなど、GM流のマーケティング手法を導入。若年層向けの「カローラ」、ファミリー層向けの「コロナ」、中間管理職向けの「マークII」、エグゼクティブ向けの「クラウン」といった、いわゆるトヨタ型の製品ラインアップを構築した。これに合わせて製品ごとに区分されたディーラー網が整備され、ターゲットとなる潜在顧客に確実にクルマを売っていく仕組みが出来上がった。
米国は基本的に階層社会なので年収と年齢が比例しない。労働者階級は「シボレー」(シェビー)、経営者層は「キャデラック」と車種が明確に分かれており、シボレーからキャデラックに乗り換える人はあまり多くないと考えられる。米国の映画やドラマ、歌謡曲などではシボレーはブルーカラーの象徴として扱われることが多い。
だが日本の場合には、年功序列の雇用形態なので、基本的に年収と年齢が比例する。このため、カローラから始まり、社内での役職が上がるつれて上級車種に乗り換えさせる「出世魚」の戦略が採用され、昭和の時代にはこれがうまく機能した。トヨタは1980年代に「いつかはクラウン」という非常に有名なキャッチフレーズを打ち出したが、このフレーズはトヨタの昭和型マーケティング戦略を全て言い表しているといってよいだろう。
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