トヨタが販売車種を半数に絞る理由:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
トヨタ自動車が、国内で販売する車種を半分に削減する方針を固めた。同時に地域別の販売戦略を担当する新しい部署も立ち上げる。トップメーカーであるトヨタは戦後、一貫してフルラインアップの製品戦略を進めてきたが、今回の改革は、同社にとって極めて大きな転換点となる。
課題は国内生産の維持
これに追い打ちをかけているのが人口減少である。これまでは、人口がほぼ横ばいで推移してきたが、今後は本格的に人口が減り始める。国内におけるクルマの需要がさらに低下するのは確実といってよい。
こうした縮小市場において、従来型のマーケティング戦略や販売戦略は非効率となる。車種を絞り込んでコストを削減し、売れ筋の車種に経営資源を集中せざるを得ないというのが実情だろう。
また、都市部と地方におけるライフスタイルの乖離(かいり)が激しくなっており、地域ごとに売れる車の種類に偏りが出るようになってきた。ディーラーの現場からも、同じ車種を全国同一基準で売るのは無理があるとの声が上がっているという。今後は地域の特性に合わせ、積極的に売る車種とそうでない車種のメリハリを付けていく必要があるだろう。
トヨタのマーケティング戦略は、日本のサラリーマン社会そのものといってよい存在だったが、そのトヨタが抜本的な改革に乗り出したということは、日本社会が大きな転換点を迎えていることの裏返しでもある。新しいマーケティング戦略は社会構造の変化に対応したものであり、おおむね妥当であると考えられるが、1つだけ大きな課題が残されている。それは国内生産との兼ね合いである。
トヨタは自動車メーカーとしては珍しく、国内生産にこだわり続けており、2016年度の生産台数897万台のうち、約46%を国内で生産している。だが、国内市場で一定数以上のクルマが売れ続けなければ、国内生産を維持することが難しくなる。一方のホンダは、国内市場に見切りを付け、何と主力工場である狭山工場の閉鎖を決定した。
トップメーカーであるトヨタにはまだ十分な余力があるが、それでも国内販売台数の減少が続くようなら、生産設備の再編などが検討される可能性もゼロではないだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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