巨大ホームセンターから見る地方住宅事情の今後:小売・流通アナリストの視点(1/3 ページ)
幅広い商品を取り扱う巨大なホームセンターはその特性から地方都市に数多く存在する。そこから見えてきた地方の住宅事情とは――。
「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!」というテレビ番組をご存じだろうか。タレントの所ジョージさんが司会を務める雑学バラエティなのだが、時々、「ホームセンターで突撃!ソレ買って何を作るんですか?」というコーナーをやっている。これがなかなか興味深いのだ。
巨大なホームセンターには、一目見ただけでは何に使うのか分からない商品が並んでいて、買った人に何に使うのかを聞いてみようという企画である。すると、なるほどと感心するような答えが返ってくる。水道管を買っている人が、ウナギ採りの道具を作ろうとしていたり、LPガスボンベでストーブを作ろうとしていたり、その用途の意外さに驚かされる。
ただ、見ていてふと、これがテレビ番組として成立するのは、こうしたホームセンターの使い方をあまり知らない人が多いからなのだろうなとも思った。特にテレビ番組の発信元であるキー局がある大都市圏で暮らす人たちには、ホームセンターはそう頻繁に用がある店ではなく、こうした店で売られている商品の利用法をある意味、奇異に思っているのであろう。
ホームセンターの主要企業は、ほとんどが地方を基盤にしており、その店舗の多くも地方で展開されている。そのため、一人あたりのホームセンターの利用額について、最も利用額の高い群馬県は、最下位の東京都の4.2倍にもなり、利用頻度がまったく違っている。
東京23区内の住民には、ホームセンターという店の存在を認識していない人も結構いるし、実際、周辺にそれらしい店があまりないようだ。日本のホームセンターは、地方の生活スタイルには浸透しているが、都会ではなじみが薄い。なぜかと言えば理由は単純で、ホームセンターという字のごとく、家の周りで使うものを買う、もしくは作るというというニーズは、家の敷地や住居の広さに比例するものだからである。
さらに言えば、ホームセンターの店舗の人気度が、店舗の広さに比例するということも、その立地条件に影響している。ホームセンターユーザーの探索する商品は多岐にわたるため、来てもらうにはたまにしか売れない商品も数多く品ぞろえしていなくてはならない。そのためには広い売場が必要なのだが、そう頻繁に売れるものではないので、地代の高い場所でやっていては採算が合わない。魅力的な巨大店舗を構えるには、地代の安い地方の郊外で展開するしかない。そうした事情もあって、本格的なホームセンターは23区内などには、ほとんど存在していない。需要と地代の制約からも、ホームセンターは、地方、郊外ならではの店といっていいだろう。
神奈川県都市部の狭いマンションに暮らしている筆者の場合、ホームセンターに買物に行くことは数カ月に1回程度しかない。屋内の備品が壊れたりしたときに、補修材を買ったり、簡単な工具を買いに行くぐらい。庭もないので、家周りの何かを自分で作ろうものなら置き場所もない。周囲に戸建ての家もあるが、庭の狭い建物も小振りな住宅が密集していてスペース的に余裕がある家は少ない。
対して、地方に住む兼業農家の知人は、ホームセンターのヘビーユーザーであり、何かとホームセンターで商品を買ってきては作業をしている。たまに会うたびに家の様子が変わっていたり、時には敷地内に自作の小屋が増えていたりすることもある。スペースに余裕があることに加えて、何でも自分で作るというDIY(Do It Yourself)スタイルが身に付いている。
こうした生活スタイルの違いが、ホームセンターの需要を左右している。それは統計数値でも確認することができる。一人あたりのホームセンター需要は、住宅に占める戸建ての割合との相関性が高く、マンション住まいの人が多い都市部ほどホームセンターを利用しないという結果が出ている。
一般的には消費の規模は、人口によって左右されるものだが、ホームセンター需要とは戸建て住宅にリンクした特殊な状況であるようだ。その戸建て住宅は人口減少を上回るスピードで減っていくことが見込まれる。ホームセンターも徐々にその数を減らすことになるのは避けられないだろう。
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