ゼンショーが小売スーパーを買収する理由:小売・流通アナリストの視点(1/3 ページ)
牛丼チェーン「すき家」などを運営するゼンショーホールディングスが小売事業を強化している。昨秋には群馬県の食品スーパー、フジタコーポレーションの買収を発表し、小売事業の売上高は900億円に迫る勢いだ。ゼンショーの狙いとは何か?
ゼンショーの小売事業拡大は続く
2016年10月、牛丼チェーン「すき家」などを運営する外食大手、ゼンショーホールディングスによる群馬県のローカル食品スーパー(SM)、フジタコーポレーションの買収が発表された。これによりゼンショーの小売部門の売上高は18年度3月期予想で873億円と、900億円に近付き、北関東方面ではそれなりの存在感を持った存在として、認識される規模にまで成長したというのが実感だ。
ただ、部門の収益としては改善傾向にはあるが低収益が続いているだけに、ゼンショーの小売事業の関しては、現時点では賛否両論の域を出てはいない。特に外食大手に攻め込まれる側のSM企業側の反応は冷淡だと言える。ゼンショーの傘下に入ったマルヤやマルエイといったSM企業群は、比較的小振りな企業規模であり、かつ、地域の勝ち組企業とは言い難い。
外食最大手とはいえ、小売業のノウハウに乏しいゼンショーがどのように再構築していくのかお手並み拝見といった見方が大半だ。ワンオペ問題以降、業績の回復に努めるゼンショーにとって足かせとも見える小売事業を拡大し続ける姿勢は、一般的に考えると不可解なのであろう。ただ、ゼンショーの小売業への執念は、長期的なスパンで眺めてみると、的外れでもないように思われる。これは、ゼンショーがビジョンとして掲げ続けている、マス・マーチャンダイジング・システム(MMD)という考え方から見て、小売業をバリューチェーン内に持つことは不可欠の要素だからである。以下で触れてみたい。
ゼンショーMMDはただのお題目ではない
ゼンショーが実現を目指すMMDとは、大まかに言ってしまえば、生産者から消費者までの一気通貫の食に関するバリューチェーンを構築することによって、効率性と付加価値を極大化し、ステークホルダーの全員がそのメリットを享受する、という壮大な構想と言える。
一見当たり前とも思えるこの構想になぜ着目するのかと言えば、現実の食の流通はまったくそうはなっていないからである。
食の流通の現実について少し確認しておこう。カロリーベース食料自給率4割弱とされる日本の食糧事情であるが、生産額ベースの自給率では66%となっており、一次生産物としては3分の2が国内生産者からの供給で占めている。この生産者である第一次産業はご存じの通り、これまでの手厚い保護政策に守られてきたことから零細事業者の集合体であり、長らく経済合理性とは程遠い論理の下、生産活動を行ってきた。
しかし、川下の小売業者等においては再編淘汰を経てその企業規模は急速に拡大、川上は川下企業の実質的支配に置かれ、その付加価値を奪われてしまった。中間流通を担う市場にしても同様で、生産地に分立する市場は川下大企業の圧力に押され収益を確保するのが難しくなった。やむを得ず再編によって存続する方向へと進んではいるが、効率化に向けて再投資する余力には乏しい状況だ。
なぜ、こうなってしまうかと言えば、簡単にいえば川上と川下の利害が対立したままで、川下だけが強大な力を持ったために、流通構造自体の構造的効率化には進まず、川下が一方的に負荷を川上、川中に押し付ける構造となっているということにある。この結果、収益を奪われてしまった第一次産業では、後継者となる若年層の流入減が深刻であり、このまま時間が過ぎれば産業としての担い手が皆無となりかねない危機的な状況にある。
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