ゼンショーが小売スーパーを買収する理由:小売・流通アナリストの視点(2/3 ページ)
牛丼チェーン「すき家」などを運営するゼンショーホールディングスが小売事業を強化している。昨秋には群馬県の食品スーパー、フジタコーポレーションの買収を発表し、小売事業の売上高は900億円に迫る勢いだ。ゼンショーの狙いとは何か?
ただ、川下の構造改善なき競争は、既に行き詰まりつつある。川上、川中の疲弊が極限に達してしまったため、もうこれ以上、コストの押し付けができないところにまで至ったのである。今後さらなる競争激化が続く川下においては、川下から川上までの利害を一致させることで、こうした泥沼から脱出しようという取り組みが始まりつつある。これこそが、第一次産業の六次産業化が広く注目されるようになった背景である。
一気通貫のバリューチェーン構築、それこそが食のSPA(製造小売業)ともいうべき新しいビジネスモデルとして期待される状況がようやく整いつつあると言える。ゼンショーのMMDは、こうした食品流通の状況を見越して、自社が主体的に流通の軸として名乗りを上げ、新たなバリューチェーン作り出すという宣言を昔からしている。この意味で、他社に先駆けた視点を持って、かつ目標として公言しているところは先進性として認めざるを得ないだろう。
こうした角度から見ると、ゼンショーの小売事業への執念は理解できることは多い。食のバリューチェーン構築には、外食だけでは構成できず、中食、小売との一体運営が必須であるからだ。
ざっくりご説明しよう。第一次生産品は工業製品ではないので、不ぞろいな野菜や、量がそろわないマイナー魚種、といった流通に乗りにくいもの(量販店に出荷できないもの)がかなり発生する。統計上では青果の生産量と出荷量は10:7であり、自家消費はあるにせよ、3割近くが生産地で捨てられている可能性があるらしい。量販店に出荷可能な規格適合品以外のいわゆる規格外品は、ある程度加工品用として出荷されてはいるが、値がつかず出荷運賃のモトが取れないため、出荷されないものがかなりあるという解釈になる。
これらを一括で集荷して外食、中食、小売に振り分けることができれば、生産者、川下、消費者の皆が利益を得られる可能性がある。この実現のためには外食、中食、小売の3本をバリューチェーン内に持っておく必要がある。この点でゼンショーはMMD実現のためには小売の構築をあきらめるわけにはいかないのである。
こうした背景もあり、ゼンショーは今後も小売、食品スーパー事業の拡大を続けていくのであろう。ただ、あえて言わせてもらえば、彼らの今保有している経営資源だけで、小売事業を収益事業にすることは困難だ。外食業の再建では実績もあるゼンショーグループであるが、小売での実績はない上に、だいたい中小食品スーパーを再建できたという事例自体が業界内にほとんど存在していない。
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