ゼンショーが小売スーパーを買収する理由:小売・流通アナリストの視点(3/3 ページ)
牛丼チェーン「すき家」などを運営するゼンショーホールディングスが小売事業を強化している。昨秋には群馬県の食品スーパー、フジタコーポレーションの買収を発表し、小売事業の売上高は900億円に迫る勢いだ。ゼンショーの狙いとは何か?
ゼンショーグループのとるべき道は、対等な関係を構築できる勝ち組食品スーパーとのアライアンスしかない。ゼンショーの基本構想MMDの実現に小売を自社内で保有することは必須の条件ではなく、実体的に機能するアライアンスで十分だからだ。さらに、うがった見方をすれば、ゼンショーはそんなことは百も承知ながら、一定規模以上の食品スーパーをM&Aを通じて作り出して、アライアンスする勝ち組小売との交渉の際の交換条件とするのだろうとも考えられる。
非上場の中小食品スーパーを1社1社デューデリジェンスして、M&Aの可否判定をしていくのは手間がかかるし、危険を伴う作業であるが、財務的にも人事的にもゼンショーのフィルターにかけてあることが前提となれば、買収先の企業ははるかに買収可否決断しやすいことは間違いない。
勝手な憶測にすぎないが、10年以内には、ゼンショー傘下の数千億円規模の食品スーパーの買収を契機とした、有力小売とゼンショーとのアライアンスというニュースが出ることになるだろう。そして、勝ち組小売との連携で、食のバリューチェーンを構築することができたゼンショーは初めてMMDの実現を宣言することになる。
外食業界でゼンショーほど明確な将来ビジョンを持って、小売業への進出意欲を示している企業は、現時点ではほかに見当たらない。過去に、外食、小売を併営することによるシナジーを実現した事例は乏しく、そのメリットはほとんどないというのが一般的な見方だったからであろう。
ただ、これまでは外食、小売の原材料調達が有機的な統合にまで踏み込んでこなかったことがシナジーを限定的なものに止めていたのではないだろうか。しかし、何年か先に、先行するゼンショーの執念が一定の成果を出すことになれば、これまでの常識を揺るがすことになる可能性がある。業界を超えた再編をも予感させるゼンショーの取り組みは注目しておきたい。
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