巨大ホームセンターから見る地方住宅事情の今後:小売・流通アナリストの視点(3/3 ページ)
幅広い商品を取り扱う巨大なホームセンターはその特性から地方都市に数多く存在する。そこから見えてきた地方の住宅事情とは――。
空家の利活用
こうした事情を考えると、広域化、希薄化している地方都市の住宅地は、ゆっくりとコンパクトシティの方向に進んでいるのかもしれない。ただ、その間の悩みは空き家問題への対応ということになるだろう。
世代交代が進んでいく中で、中心部、郊外を問わず、単身世帯の跡地たる空き家が大量発生する、というのはよく聞く話だ。空き家の処理は周辺住民や相続人にとって重たい問題だ。放置すれば老朽化による危険性や治安の低下につながりかねないが、解体や処分をするにも費用がかかる。特に、故郷から離れて居住している相続人などの場合、要する手間と時間もバカにならない。関係者にとっては頭の痛い問題である。
だが、都市再構築の観点からすれば、空き家処理の政策的誘導によって、市街地の再構築を行う好機と捉えることもできる。コンパクトシティの範囲内の空き家に対しては再使用、再構築する、外側の空き家は転用、解体の方向へと誘導していけば、少しずつではあるが希薄化した街が効率的な構造に戻せる可能性もある。これからの地方の住宅政策は、こうした空き家のマッチングを、政策に沿って街を再構築していくための前向きなツールとして活用すべきだと思う。
先日、かつて赴任していたことがある和歌山市を訪れる機会があり、街中、郊外と回ってみた。この町は人口約36万人の県都で、決して小さな町ではないのだが、典型的な希薄化都市となっており、町の中心がどこかが分からない。JR和歌山駅、南海電鉄和歌山市駅、商店街地区といった昔の中心がすべて1〜2キロメートル離れて存在しており、各々がかなり寂しい感じになっている。
地元資本の百貨店は10年以上前に倒産し、商店街地区の大手百貨店、大手総合スーパーも撤退した。当然ながら、路面電車はとうの昔に廃止されている。和歌山大学、県立医科大学も郊外移転したため、若い人の姿がかなり減ったという。最近では巨大なイオンモールが郊外の和歌山大学近隣にでき、幹線道路も整備されたため、人の流れはそちらに向かっているらしい、と地元の人に聞いた。かつて暮らしていたとき以上に町の活気が失われていると感じ、寂しい思いがした。
ただ、ちょっと期待したいと思ったのは、旧市街に空き地ができると、中心に近い部分はマンションに、周辺住宅地区には分譲住宅が新たにできてきて、そこに郊外から人が戻りつつある様子がうかがえたことだ。昔住んでいた社宅も今は売却されてしまったが、分譲されて新たな住宅に変わり、周りを子どもたちが走っていた。ほんの少しずつだが、中心部に人が戻ってきているように思え、少しだけ安堵した。
町に人の姿は減ったが、道路には車が常にたくさん走っている。かつての40万人都市から人口が減ったとはいえ、まだ36万人もいるのだから、コンパクト化したり、機能が集まったりすれば、相当なにぎわいは作れるはずだ。まだまだ出せる知恵はたくさんある。
関連記事
- 24時間営業縮小から思う「地方創生」の真実
早朝深夜営業における人手不足などによって24時間営業の小売店や外食チェーンなどが減少している。そうした社会情勢と地方のつながりについて考えてみたい。 - 路面電車を残した地方都市の共通点
クルマ移動が主流となって以降、中心部が空洞化した地方都市は多い。しかし一方で、依然として中心市街地が存在感を維持している街もないわけではない。共通するポイントは「路面電車」の存在である。 - 日本の百貨店はまた同じ道をたどるのか?
インバウンド消費によって支えられている日本の百貨店だが、この恩恵が未来永劫続く保証はない。客離れという本質的な問題にメスを入れ、大変革を遂げるのは今しかないのではなかろうか。 - 生鮮も売る「フード&ドラッグ」に地方の可能性を感じた
ドラッグストア業界の動きが目まぐるしい。マツモトキヨシの首位陥落、そしてすぐさまツルハの首位奪取という変動は、業界のシェア競争が終盤戦に入ったことを感じる。そんな中、地方で興味深い業態が目についた。 - GMS大量スクラップ時代の風に乗るドン・キホーテ
総合スーパー(GMS)の店舗再生に定評があるドン・キホーテに対し、ユニー・ファミリーマートが業務提携の検討を始めた。なぜドン・キホーテは注目されているのか。その強さの源泉に迫った。 - ゼンショーが小売スーパーを買収する理由
牛丼チェーン「すき家」などを運営するゼンショーホールディングスが小売事業を強化している。昨秋には群馬県の食品スーパー、フジタコーポレーションの買収を発表し、小売事業の売上高は900億円に迫る勢いだ。ゼンショーの狙いとは何か? - イトーヨーカ堂の反撃は始まっている
大手GMS(総合スーパー)が軒並み業績不振だ。ただし、各社の置かれた状況は一律ではなく、起死回生の一手となるカードを持つ企業がいるのだ。それはイトーヨーカ堂である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.