路線と思惑の交錯―― 阪急神戸本線と神戸市営地下鉄の直通計画:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
三宮駅を終点とし、神戸高速鉄道に直通する阪急神戸本線と、三宮駅を経由し西陣ニュータウンと新神戸駅を結ぶ神戸市営地下鉄西神・山手線の直通計画が再浮上した。2004年に阪急が持ちかけ、神戸市が渋った構想だ。しかし今回は神戸市長が阪急に秋波を送る。阪急HD社長も前向きで、実現の可能性が高まった。
新構想の連発で2017年をにぎわせた阪急電鉄
阪急神戸本線と神戸市営地下鉄の相互直通構想は、04年に阪急電鉄側が構想し、神戸市営地下鉄に打診していた。しかし、地上にある阪急三宮駅を地下化する大工事で、当時でも総事業費が1000億円を超えると見積もられており、神戸市側が難色を示していた。それから10年以上たって、現職市長が公約に掲げるまでに至った。現市長は前市長の指名後継候補だった。前市長時代は渋り、現市長は前向き。神戸市側にどんな変化があったのだろう。
一方、阪急電鉄側は急な進展に驚いていたと思われる。今年に入って阪急電鉄は3本の新線構想を打ち出している。神戸市営地下鉄直通計画は構想にとどまっていたため、現在の阪急からすると、4番目の新線計画という感覚になるだろう。
阪急電鉄の新線計画の1つ目は「なにわ筋線計画」に関連して、十三とうめきた新駅を結ぶ路線。この路線は阪急の線路規格(軌間1435ミリ)ではなく、JRと南海の線路規格(軌間1067ミリ)に合わせるとまで譲歩し、関空への直通運転を望んでいる。
2つ目は、1つ目の路線を十三から逆方向へ延伸し、新大阪駅へ結ぶ路線。なにわ筋線もJRの貨物線を転用して新大阪駅まで通じているけれども、JR西日本は南海電鉄の直通には抵抗しているとうわさされており、南海電鉄の関空特急「ラピート」は、この阪急の新線を経由して新大阪と関空を結ぶとも考えられる。
3つ目は伊丹空港直結線だ。阪急宝塚線の曽根駅から分岐し、伊丹空港ターミナルビルの地下に至る路線だ。実現すれば梅田と伊丹空港が15分程度で結ばれるとみられる。空港と大阪都心のアクセスが大幅に改善される。近畿圏在住者だけではなく、他の都道府県から大阪へ向かう人にとっても関心が高い。国家的プロジェクトにしてもいいくらいの構想だ。
そして4つ目に阪急神戸本線と神戸市営地下鉄の相互直通構想が浮上した。大手私鉄の阪急電鉄とはいえ、これだけのプロジェクトを同時進行する体力と資金力があるか。優先順位を設定する必要があるだろう。資金の面では、交通インフラ事業だけに自治体や国からの支援を期待できるはず。支援を取り付けやすいところから始めるという考え方はある。しかし、人材面は工事の従事者、管理者など資源に限界がある。どの路線を優先するか、そのプロジェクトが阪急電鉄の路線網にどれだけ貢献するかを考慮して配分する必要がある。
関連記事
- 伊丹空港アクセス線が再起動 空港連絡鉄道の現状と展望
阪急電鉄が伊丹空港乗り入れに積極的な姿勢を見せた。鉄道路線建設が停滞する中で、有望株は空港連絡鉄道だ。地方空港の空港連絡鉄道計画の動向を振り返ってみよう。 - なにわ筋線に阪急電鉄参加、各社への波紋
“なにわ筋線”構想に新たな展開だ。阪急電鉄が参入を表明し、直通運転を見込んで十三から北梅田へ新線を建設したいという。その構想の先には、宿願の新大阪駅延伸がある。一方、中之島線を持て余す京阪電鉄にも商機が見えた。 - 北陸新幹線の新大阪駅、その先をどうするか
北陸新幹線の京都〜新大阪間のルートが確定した。新大阪まで来たら山陽新幹線に乗り入れたい。ただし、岡山から先は九州ではなく、四国かもしれない。関西広域連合と四国鉄道活性化促進期成会が活気付く。ルートは2つ。瀬戸大橋と大鳴門橋だ。 - 「なにわ筋線」の開通で特急「ラピート」と「はるか」が統合される?
JR大阪駅周辺の新線計画が進ちょくしている。大阪駅の北側に北梅田駅(仮称)を作り、新大阪駅発着の特急を停車させる。さらにJR難波と南海難波新駅を結ぶ「なにわ筋線」構想が絡む。おおさか東線の新大阪駅延伸も組み合わせると、新たな環状ルートができる。 - 2018年「大阪メトロ」誕生へ、東京メトロの成功例を実現できるか
2006年から検討されていた大阪市の地下鉄事業民営化について、ようやく実現のめどが立った。大阪市営地下鉄は2003年度に黒字転換し、2010年に累積欠損金を解消した優良事業だ。利益を生む事業なら市営のままでも良さそうだ。大阪市が民営化を目指した理由とは……?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.