2018年「大阪メトロ」誕生へ、東京メトロの成功例を実現できるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
2006年から検討されていた大阪市の地下鉄事業民営化について、ようやく実現のめどが立った。大阪市営地下鉄は2003年度に黒字転換し、2010年に累積欠損金を解消した優良事業だ。利益を生む事業なら市営のままでも良さそうだ。大阪市が民営化を目指した理由とは……?
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
鉄道事業は初期投資額が大きく、そのための借金の返済に時間がかかる。トンネルを掘り進む地下鉄では、より投資金額が大きく返済期間も長くなる。従って、よほど儲かる確証がない限り、民間企業には手を出しにくい。日本ではほとんどの地下鉄道が自治体の運営であり、海外の地下鉄も自治体運営または上下分離方式だ。
しかし、裏を返せば、自治体経営のメリットは資金調達程度とも言える。路線の建設が終わり借金の返済が終わると、事業の運営については民間企業のほうが立ち回りやすい。小泉純一郎内閣時代に提唱された「民間にできることは民間で」は、ほぼ正しい。「ほぼ」と付く理由は、公共事業の中には民間企業に任せるとサービス低下につながる事例もあるからだ。赤字路線の廃止などが好例であろう。
そうした中、大阪市交通局の地下鉄事業民営化がようやく実現される見通しになった。今まで慎重姿勢だった自民党市議団が「条件付き賛成」の方針を示したからだ。その条件とは、今里筋線延伸など4路線を建設するための基金創設、人事に市が関与するなどという。民間企業にとって地下鉄路線建設は負荷が大きく及び腰になる恐れがある。だから新路線の建設の枠組みを担保してほしいということだ。人事の関与は、民間会社の株を大阪市が100パーセント保有していれば担保される。大阪市が関与し続けるためには、将来の全株売却はできない。
吉村洋文市長は自民党の意向について対応する姿勢とのこと。地下鉄事業民営化の基本方針案が9月の定例議会で可決し、運営主体移行のために大阪市営地下鉄廃止議案が2017年2月の定例議会で可決した場合、2018年4月に民営化が実施される。商号は「大阪地下鉄株式会社」と仮定されている。東京地下鉄株式会社が「東京メトロ」という愛称となったように、大阪地下鉄株式会社も「大阪メトロ」という愛称になるかもしれない。
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