2018年「大阪メトロ」誕生へ、東京メトロの成功例を実現できるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
2006年から検討されていた大阪市の地下鉄事業民営化について、ようやく実現のめどが立った。大阪市営地下鉄は2003年度に黒字転換し、2010年に累積欠損金を解消した優良事業だ。利益を生む事業なら市営のままでも良さそうだ。大阪市が民営化を目指した理由とは……?
大阪市のメリットは補助金カットと税収
大阪市にとって地下鉄事業を民営化する利点は、市の財政負担の軽減と税収の増加だ。2011年度、大阪市営地下鉄は167億円の黒字だった。しかしここには大阪市一般会計から104億円の補助金や出資金が含まれている。実質的な黒字額は63億円だ。黒字なのに補助金がいるのかと言うと、建設資金、運転資金のまとまった資金を自治体予算や公営企業債でまかなうからである。
地下鉄を民営化すれば、さしあたり104億円の一般会計支出はなくなる。そして、民間企業になれば納税の義務が発生する。大阪市は地下鉄会社の固定資産税などを約50億円と見積もっている。また、株式の配当で約25億円を見込む。つまり、今までは104億円の支出、民営化後は75億円の収入となり、合わせて179億円の効果がある。そして、将来、地下鉄会社が上場すれば、大阪市は巨額な売却益を得られる。
地下鉄事業としては、意思決定のスピードアップが利点だ。公営企業体は自治体からの資金補給がある一方で、議会で決定した市の予算に縛られる。資材の調達や工事の発注については競争入札が基本で、約1カ月の公示期間を含めて発注まで半年以上かかる事例もある。その上、入札にあたっては購入価格のみ審査される。保守費用は加味されないため、同じ用途の機器でも入札のたびに異なるメーカーになり、結果的に保守費用がかさむ。
旧国鉄のように、付帯事業は鉄道との密接な因果関係が必要となる。また、新規事業を立案したとしても、年度当初に決まった予算の変更は難しい。人事についても大阪市全体の職員バランスの調整が必要となってしまう。
民間会社では自社の利益を最大にするために行動し、随意契約も増やせる。人事異動も臨機応変に対応可能。ホーム柵やデジタルサイネージの新技術や普及型機器への切り替えも早い。意思決定が早ければ利益が増える。それは株式の配当収入になって大阪市へ還元される。
つまり、市の直営では制度的に伸び代がない事業でも、民営化すれば活性化される。配当利益や株価の上昇という形で市に還元される。
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