「電車には乗りません」と語った小池都知事は満員電車をゼロにできるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
東京都知事選挙で小池百合子氏が圧勝した。小池氏が選挙運動中に発した「満員電車をなくす、具体的には2階建てにするとか」が鉄道ファンから失笑された。JR東日本は215系という総2階建て電車を運行しているけれど、過酷な通勤需要に耐えられる仕様ではない。しかし小池氏の言う2階建てはもっと奇抜な案だ。そして実現性が低く期待できない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
小池議員を怒らせた「一言」
東京都知事に就任した小池百合子氏に、一度だけお目にかかったことがある。
2014年12月、品川〜鎌倉間を583系電車で往復する「鉄道コン」列車を同乗取材したときだ(関連記事)。小池氏は「婚活・街コン推進議員連盟」の会長だった。この日は鉄道好きで地方創生担当大臣の石破茂氏とともに乗車されていた。小池氏は終始にこやかに行動され、参加者に婚姻届用紙を配布した。その証人欄に自ら署名していた。こうした配慮ができ、茶目っ気のある人だ。
しかし、その小池氏を、私は怒らせてしまった。穏やかな共同インタビュー取材の後、小池氏が控え車両から参加者の車両へ移動する際に、私から声を掛けたときだ。
「小池さんは普段、電車でお出掛けされるんですか?」
この言葉が小池氏にとって癇(かん)に障ったようで、小池氏は私をキッと睨み、一瞬の沈黙の後に言い放った。
「乗りませんッ!」
この一言で私は狼狽した。何か失礼な質問だったか。調子に乗って、気安く声を掛けたと受け取られたか。いずれにしても、穏やかに答えを引き出す場面で、私は相手を怒らせた。これは私の失敗だ。同時に、小池氏に対する第一印象が固まった。確固たる考えを持ち、仕事のできる女性。しかし、一度怒らせたら取り返しが付かない。自分の上司になってほしくないタイプだ。褒められて伸びるタイプの私としては(笑)。
そんな私に、後ほど小池氏の秘書が名刺をくれた。追加質問があれば遠慮なく、という言葉を添えて。物腰が柔らかく良い印象だった。なるほど、こういう人に支えられているのか。良いスタッフがそばにいる。これも政治家の技量の1つだろう。政治記者ではない私にとって、今のところこれが唯一の政界取材体験だった。
今思うと「乗りませんッ!」の意味は何だろう。悪意のあるメディアなら「庶民の乗り物に同乗するつもりはない」と受け止めるだろうし、善意として受け止めるなら「国会議員であり、警備上の都合もあって乗れない、それを明言しないといけない立場だ」という意味かもしれない。あるいは「乗りたいけれど、忙しくて時間がない。辛い」という悲痛な叫びだろうか。
しかし、ここに事実が1つある。「小池百合子氏は電車に乗らない」のだ。
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