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丸井がクレジットカードの即時発行にこだわる歴史的な理由ポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(1/6 ページ)

会員を600万人以上持つ丸井グループのクレジットカード。その多くが若者であることは今も昔も変わっていない。なぜ丸井は彼らに支持されるのか。その理由をひもとくと……。

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 渋谷や新宿をはじめ首都圏および地方の都市部に商業施設を展開する丸井グループ。「若いころによく服を買いに行ったな」と懐かしむ読者も多いはずだろう。そして、そんな皆さんは丸井で買い物する際に、恐らく同社の赤いカードを使っていたのではないだろうか。

 現在、丸井グループのクレジットカードであるエポスカードは会員が600万人以上、取り扱い高は1兆5000億円を超え、グループ全体の営業利益の7割以上を占めているのだ。そしてその会員の多くは、今も昔も変わらぬ若者なのである。

 なぜ丸井は若者から支持されるのだろうか。一橋大学大学院 国際企業戦略研究科(一橋ICS)の大薗恵美教授が、丸井グループの青井浩代表取締役社長に聞いた(以下、敬称略)。

小売店の「マルイ」および「モディ」を全国に27店舗展開する丸井グループ。写真は「新宿マルイ アネックス」
小売店の「マルイ」および「モディ」を全国に27店舗展開する丸井グループ。写真は「新宿マルイ アネックス」

小売と金融の一体型ビジネスは創業時から

大薗: 丸井グループのユニークな競争戦略の1つは、ターゲット顧客が若い人たちということです。2015年度のエポスカード会員613万人のうち54%が30代以下です。若者をターゲットにしますと言うのは簡単ですが、言ったからといって顧客になってくれるわけではありません。なぜ丸井は若い人たちを引き付けられるのでしょうか?

青井: 実際にはターゲットとしてあえて若者を狙い、顧客になってもらおうというマーケティングの発想があったのではなく、過去の経緯で結果的にそうなったのです。そのきっかけは30年以上にさかのぼります。

 当社は1931年に創業しました。ビジネスの中心は家具の月賦販売で、商品を販売するときに信用を同時に供与する、つまりお金を消費者に貸していました。モノを販売する小売と、お金を貸す金融が一体になったビジネスモデルだったのです。このビジネスを創業以来86年間、時代の変化、顧客の変化に合わせてずっと進化させてきたのが丸井です。

 家具や家電などの耐久消費財を月々の支払いで販売することで業績を伸ばし、60年に日本で最初のクレジットカードを発行、65年に東証一部に上場しました。ところが、80年代半ばに、当社も含め業界全体が危機に瀕します。

 高度成長期を経て80年代に入ると、3C(カラーテレビ、クーラー、自動車)に代表される耐久消費財の消費者への普及が一巡します。月賦やクレジットカードはそうした商品の購入を助けてきたので、その役割が一段落することで業界全体が大打撃を受けたのです。

 同業他社だった緑屋と丸興は立ち行かなくなり大手に吸収され、緑屋(現クレディセゾン)が西武グループに、丸興(現セディナ)がダイエーグループになりました。小売を捨て、金融に特化することで大手グループの中で役割を果たしていくわけですが、なぜ当社だけが小売と金融の一体型ビジネスを続けることができたのでしょうか。

 答えは、商材を耐久消費財から非耐久消費財に変えたからです。非耐久消費財の代表格がアパレルで、当時は日本のデザイナーやファッションブランドの多くが原宿から出てきました。それを熱烈に支持したのが若者だったのです。丸井は扱う商品をアパレル中心に変えたことで、顧客層が学生をはじめ若い人たちに一気にシフトし、息を吹き返しました。

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