私が出会った「スゴい営業マン」が実践していたこと:常見陽平のサラリーマン研究所(2/3 ページ)
どの職種においても「営業力」は求められるものだ。今回は、凡人営業マンと優秀な営業マンの違いについて、私が体験してきた「スゴい営業」を紹介しながら考えたい。
常見氏が体験した「スゴい営業」
前置きが長くなってしまったが、ここで、私が体験してきた「スゴい営業」を紹介しよう。
ケース1:ひたすら顧客の様子を観察し、記録する営業マン
私が勤めていたリクルートは当時、「営業会社」と言われるほど、強烈な営業集団だった。「口頭のプレゼンで3億円決めた」「提案のために、客先でバイトをした」「時間の管理がまったくできないのでいつもアポに遅刻するが、提案が素晴らしすぎるので、毎回、顧客の部長、課長がずっと会議室で待っていた」など武勇伝は枚挙にいとまがない。
さまざまなトップ営業マンがいる中で、私が特にスゴいと思っていた人がいる。見た目も態度も全く営業っぽくない人だったが、彼は「顧客満足」ということにトコトンこだわっていた。しかも、それはペコペコすることや、過剰なサービスによって成り立っているわけではない。「この顧客は、何が満足のポイントなのか」を掘り下げることによって、圧倒的な顧客満足を勝ち得ているのだった。
商談中、彼はひたすらメモをとる。相手の発言をメモするだけではない。相手の反応もメモするのだ。どの話に反応したか、何に食いついたか、目の色が変わる瞬間はどのタイミングだったか、と。
この時の「反応メモ」を元に、彼は丁寧なお礼メールを書き、食いついたポイントから商談につなげていくのだった。顧客の話を深く聞くだけでなく、反応まで観察し、満足のポイントを掘り下げているのだ。
苦しい営業を避けるためには、満足のポイントを判断することが必要だ。そのためには、ここまでやるのである。
ケース2:クルマの性能ではなく、ライフスタイルを売るカーディーラーの営業
私が最初に乗っていたオペルアストラワゴンから次のクルマへの乗り換えを検討していたときだった。
「買わない」と思いつつ、一応、話を聞きに会いに行ったのが、仏国の自動車メーカー、Peugeot(プジョー)のディーラーである。買わないと思っていたのは、仏国車は壊れやすいといううわさを聞いていたからだ。だから次はベンツかボルボに乗るつもりだった。
しかし、その営業マンは「壊れやすい」といううわさを一蹴。日本製の部品が使われており、アフターサービスもバッチリという話で私を安心させる。試乗では「プジョーは猫足と言われるんですよ。ほら、ブレーキをかけなくても、このカーブを曲がれるんですよ」と性能をアピール。その後、クルマの用途をひたすらヒアリング。当時の私は週末のおでかけにも使えば、たまにアウトドアもするという日々を送っていた。
「お客さん、プジョーは山道でも、ホテルの前でもよく似合うんですよ」
この一言にやられた。買う予定はなかったのに、その日に即決。2年間乗り、車検がきたらさらに新車に買い換えた。これはまさに不安の解消であり、ライフスタイルの提案だ。凡人営業マンはモノを売るが、優秀な営業マンは体験を売っているのだ。
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