地域医療構想を3つのキーワードで読み解く:都道府県はどこへ向かう(6/6 ページ)
「地域医療構想」に基づいた議論が進んでいる。各都道府県は地域の医師会や医療関係者などと連携しつつ、急性期の病床削減や在宅医療の整備に取り組もうとしているが……。
国と都道府県の認識ギャップ
以上、地域医療構想の制度化プロセスを振り返ることで、(1)病床削減による医療費適正化、(2)切れ目のない提供体制構築――という2つの目的が混在している点を検証するとともに、地域医療構想の内容を把握することを通じて、都道府県はどちらを重視していたのか考察してきた。
その結果、全体的な傾向として、(a)必要病床数を削減目標としないことを明記、(b)市町村国保の都道府県単位化、医療費適正化とのリンクを避けた、(c)日常的な医療ニーズに対応する必要性に言及した、(d)地元医師会と連携・協力しつつ地域医療構想を策定していた――といった実態があり、「病床削減による医療費適正化」「切れ目のない提供体制構築の目的」という混在する目的のうち、都道府県は後者を優先している点を明確にした。
しかし、骨太方針2017の「都道府県の総合的なガバナンスの強化」という文言に代表される通り、経済財政諮問会議や財務省を中心とする国の議論は(1)に傾きがちであり、図3のように(2)に力点を置く都道府県の間に認識ギャップが見られる。
その一端については、3ページで述べた基金のスタンスに表れていると言える。財務省は基金の分配先について、回復期病床の充実など病床削減につながる使途に重点配分するよう求めており、こうしたスタンスは(1)、特に急性期削減を重視していると言える(※16)。
一方、都道府県のスタンスは異なる。近年の改定では7:1要件を厳格化しており、急性期の削減や回復期の充実は診療報酬改定の影響を受けやすい。こうした中、都道府県は18年度改定の影響を見極めつつ、(2)を重視する観点に立ち、在宅ケアの整備や人材確保などに基金を使うことを期待している(※17)。このギャップは2つの目的を混在させた結果であり、こうした認識ギャップは今後も制度の目標設定や進行管理の場面で一層、顕在化する可能性が想定される。
では、都道府県は今後どのような対応が求められるのだろうか。第2回以降は「脱中央集権化」(decentralization)、「医療軍備拡張競争」(Medical Arms Race)、プライマリ・ケアという3つのキーワードを用いつつ考察を深めたい。
※16 財政制度等審議会が16年11月に示した建議で、「病床機能の転換等に直接資するものに交付を重点化すべき」と求めた。
※17 基金の使途については、大津唯(2017)「『地域医療介護総合確保基金』の現状と課題」『会計検査院』No.56が詳しい。同論文では「医療機能の分化・連携を進めるための医療機関の施設・設備整備など単年度会計になじみにくい事業と,医療従事者の確保のための国庫補助事業という異質のものを1つの基金に混在させたことは妥当でなかった」と指摘している。
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