小田急ロマンスカー「GSE」が映す、観光の新時代:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
小田急電鉄は来春から導入する新型ロマンスカー70000形「GSE」を発表した。第1編成が3月から、第2編成は第1四半期早期の導入予定。製造はこの2本の予定だ。フラッグシップの特急を同じ車両で統一しない。小田急電鉄の考え方が興味深い。
既報の通り、小田急電鉄は新型ロマンスカー「70000形」の車両を公開した。合わせて、この車両の愛称を「GSE」と発表した。ロマンスカーは1957年登場のSE(Super Express)に対して、63年の2代目が NSE(New Super Express)、80年の3代目がLSE(Luxury Super Express)と、SEの前に象徴的な文字を入れる。例外としてEXEがあるけれども、70000形GSEのGは「Graceful」だ。優雅な、しとやかな、上品な、という意味である。
いきなり余談だけど、ネット時代を象徴する話として、GSEについては小田急が商標登録し、その登録情報が公開されたため発表前から鉄道ファンの話題になっていた。それを全国紙が報道したというやぼな話もあるけれども、小田急電鉄もツメが甘い。「ASE」から「ZSE」まで、取れる商標は全て押さえておけば当日まで伏せておけたし、そうしないと今後困るぞ、と思う。
さて、「Graceful = 優雅さ」の象徴は大きな窓だ。前面展望窓、側面ともに窓の高さを約30センチ大きくした。展望席は傾斜角を立たせ、前面ガラス両側の柱を板状とし、進行方向に平行に立てることで、前面展望を最大化した。最前列の座席位置を在来車VSEより約35センチも前に押し出したから、乗客の視野角いっぱいに窓ガラスが広がる。
建築では頭上空間の広さで優雅さを演出する。しかしロマンスカー展望席の宿命として、後方2階部分に運転室がある。従って、天井高に限界があるけれども、GSEは床の方を下げて頭上空間を確保した。天井を高くではなく、床を下げるという逆転の発想が面白い。もう1つ、展望席の荷棚をなくしたことも頭上空間を広げている。荷棚の廃止は 後方席からの前方展望にも配慮したという。
展望席付きのロマンスカーはどうしても展望室に人気が集中する。料金は同じだから、先頭車と中間車の展望格差がある。GSEはそこに2つの解決策を施した。1つは、Wi-Fiコンテンツだ。スマートフォンなどで利用でき、8カ国語で提供される車内エンターテインメントの1つに、展望カメラからのリアルタイム映像配信がある。視野角はかなわないけれども、大型タブレットを持ち込めば、どの座席も展望席になる。もちろん電源コンセントは各座席に用意されている。
もう1つの格差解消策は、前述のように側面窓ガラスの高さも約30センチ拡大したことだ。窓は肘掛け付近から始まり、頭上のずっと上、座ったときは手の届かない荷棚付近まである。しかも緩やかな曲面ガラスが天井に回り込む。窓側の座席では空の青さ、広さも感じられそうだ。ヘッドレストの上に届く高い窓は通路側座席からの眺望もよい。車両後方から見渡せば、複数の窓にわたるパノラマが楽しめる。窓が大きいと、窓から離れた席も幸せになれる。
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