マツダCX-8試乗 3列目は果たして安全だったのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
マツダは国内SUVの最上位モデルにあたる新型車、CX-8を発売する。筆者が以前から着目していた3列目シートは果たして安全だったのか。試乗してみた。
ツアラーのハンドリング?
ハンドリングに関しては、加減速ほどにはほめられない。例えば、CX-5はまっすぐ走ること、曲がることのどちらにおいても、ちょっと感動するほどくっきりとした精度感があった。それと比べるとぼんやり感は否めない。感覚的には旧型CX-5と少し似ている。よく言えば穏やかで優しい。従順な家畜のような暖かい感触ではあるものの、鮮やかさを求めると少し物足りない。
大舵角までいけば良好だが、微舵領域でのパワステのフィールが希薄で情報が返ってこない。ステアリングの切り始めでの初期ロールが予測とズレ、大げさに言えば切り始めでぐらっと来る。おおらかと言えば聞こえが良いが、精度感はない。ただし、7人乗ってしまうと、むしろそういうあいまいな感じが薄まる。負荷が増えると良くなるのは不思議なものだが、人が乗れば重心位置が上がり、ばねはあらかじめ縮む。アーム類の角度も変わる。それらの一部か全部が影響しているのだろう。
シャシー性能はなかなか一筋縄ではいかないところが面白くもある。ステアリング全体としては大きく減点するほどとは言わないが、昨今のマツダのレベルにはもっと多くを期待している。一応はキーバリューの2番目で定義される(多人数乗り)ロングツアラーとしての性格だと説明することもできないではないのだが、どこか言いわけがましさは拭えない。
言うだけのことはある室内環境
室内騒音は、SUVとしてはかなり静かで、マツダは静音設計を力説する。構造上、リヤサスペンションからの入力騒音が3列目を直撃するのは、独立したトランクを持たないクルマの宿命だ。基礎的な騒音環境が厳しい上に、3列シートと運転席の距離が物理的に離れている。その上、間には2列分のシートバックが隔壁のようにそびえている。発話してもその声を吸収してしまうから1列目と3列目の会話は成立しにくい。そこを本格的な3列シート車として、3列目の疎外感を解決するために頑張ったとマツダは言うのだ。
2列目のシートはベンチシートとキャプテンシートが選べる。3列目シートをたたんでも5人乗車が可能なベンチシートと、独立シートのキャプテンシート(写真)、2列目のセンターコンソールなしで、ウオークスルーが可能なキャプテンシートと3種類のシートから選べる
実際はどうかと言えば、筆者が運転しているとき、たまたま3列目のシートに座ったマツダ広報氏の携帯が鳴った。声を抑えつつ、手短に会話を終わらせようとしている内容が丸聞こえだった。声を張らずともクルマ1台の全員の会話が成立することが図らずも証明された。
さて、今度はマツダの人に運転を代わってもらい、筆者が3列目に座る。2列目のシートバックを倒しての乗り降りは、床の高さもSUVなりに高く、楽だとは言わないが、怖じるほどではない。若くもない巨体の筆者でそうなのだから、多少の高齢者でも補助さえすれば何とかなるだろう。
さすがに3列目のエアボリュームは、特に頭上において広々というわけにはいかない。身長168センチの筆者でも座り方によっては髪が天井に触れる。そこはアルファードとは違うが、空間デザインは快適で、特にシートの出来は3列モデルの中ではかなり上位に入るだろう。しかもシートバックが大きく高いし、ヘッドレストも補助的なものではない。「みそっかす」席ではないもてなしは十分に感じられる。これはCX-8の大きなセールスポイントになる部分だろう。乗り心地も静音性も良好。運転するクルマとしては少々言いたいこともあったCX-8だが、乗せられるクルマとしては非常に良い。
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