2017年 試乗して唸った日本のクルマ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
2017年も数多くのクルマがデビューしたが、全体を振り返ると日本車の当たり年だったのではないかと思う。改めて筆者が特に心に残ったクルマ4台のクルマをデビュー順に振り返ってみたい。
トヨタ・カムリ 全てに一流
次に乗ったのは7月のトヨタ・カムリだ。現行プリウスの登場以来、TNGA(Toyota New Global Architecture)の導入が進むたびに良くなったと思わせるトヨタだが、このカムリから新開発のエンジン投入により、ついに主要要素の全てがTNGA化された。
この新開発のパワートレーンが素晴らしい。ひと昔前までトヨタハイブリッドのパワートレーンはドライバーの言うことを全然聞かなかった。アクセルを踏み足しても加速しない。アクセルをオフにしても減速しない。燃費のチャンピオンであるために手段は選ばないとでも言わんばかりの頑固なユニットだった。
それがTNGAの進展とともにドライバーの微細な加減速要求に正しく反応できるようになった。特に今回のパワートレーンはもはや「ハイブリッドはフィールが悪い」とは言えないものに仕上がっている。むしろセオリー通り、発進や加速レスポンスはモーターが、モーターが苦手とする高速域はエンジンが主役になり、それぞれの欠点を補うことで、高いドライバビリティを発揮するようになった。さすがに回生ブレーキと物理ブレーキの協調制御にはまだクセが残っているが、それを除けば、ハイブリッドは完成の域に達したと言って良いだろう。
カムリの走りは基本において、静かで穏やかだ。そこが一番の長所だと感じる。運転していてアドレナリンがどばどば吹き出す系譜ではなく、むしろアルファ波が出るタイプ。かつてのトヨタは静かな代わりに、覚醒レベルが下がっていくような感覚があったが、カムリは緊張と無縁な寛いだコンディションでどこまででも走っていけそうな気分になる。どこか既視感があると思ったら、初代セルシオだった。当時世界を驚かせた圧倒的な静粛性。カムリはそれをトヨタのDNAとして引き継いでいるように思う。
静かで穏やかで癒しのクルマだと思っていると、カムリはもう1つの顔を持っている。然るべき場所に持っていき、然るべきペースに上げると、カムリは途轍もない旋回能力を発揮する。その速さは熱血型ではなくあくまでもクールだが、能力値の高さは尋常ではない。公道で限界云々などとんでもない。カムリをそんなところまで持っていける運転スキルの人はほとんどいないだろうし、いたとしても社会的に許されないだろう。それくらいスゴイ。
普段使いで穏やかな反面、クールなスポーツセダンというもう1つの顔があると思ったら、まだあった。さすがはハイブリッド。燃費もまた素晴らしい。多少渋滞に巻き込まれたトータル燃費で、しれっとリッター22キロ走って見せた。まさに多才。トヨタの北米マーケットを支えるエースだけのことはある。ジャンルとしてのセダンが衰えていく一方の日本で、このクルマに触れる人が少ないであろうことはとてももったいない。
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