「ブラック企業」なぜ消えぬ “厚労省リスト”の効果とは:掲載企業は氷山の一角だ(2/4 ページ)
厚生労働省は5月、労働基準関係法違反の疑いで送検された国内企業のリストをネットで公開した。“ブラック企業リスト”として話題となった。しかし、7カ月が経過した現在も、追加される企業は後を絶たない。リストに効果はあったのだろうか。ブラック企業はなぜなくならないのだろうか。
知られざる“地方のブラック企業”
――あまり知られていない掲載企業の中で、悪質だと感じた例はありましたか。
新田氏:岡山県の太陽光発電事業者「エコシステムグループ」はかなり悪質です。91人のスタッフに、2カ月間で計約4010万円の定期賃金を支払わなかった旨で掲載されていますが、未払い金額が常軌を逸しています。
宮崎県の高齢者福祉事業者「豊の里」「宮崎県福祉開発センター」など4社は、共謀して6人の外国人労働者を強制的に労働させたためリスト入りしています。これはブラック企業どころの騒ぎではなく、組織的な犯罪です。
リストはこうしたケースを世の中に周知することで、犯罪の抑止力としても一定の役割を果たしていると捉えています。
ブラック企業リストの課題は?
――リストの課題点に関してはいかがでしょうか。
新田氏:全てのブラック企業をカバーできておらず、氷山の一角しか掲載できていない点です。もっと悪い会社は、世の中にたくさんあるはずです。
――多くの企業をカバーできない理由は何でしょうか。
新田氏:ブラック企業リストに載る基準を「書類送検された企業」と限定しているためです。企業は法令違反する行為を繰り返した場合でも、労働基準監督署による是正勧告を複数回経るくらいでないと書類送検に至らないのです。そのため、送検される企業は、勧告を受けた企業のわずか1%程度にすぎません。
違法行為を行っているものの、送検に至っていないブラック企業が多くあることは想像に難くありません。
この課題の根本的な原因は、臨検の資格を持つ監督官が全国に約3200人しか存在しておらず、労基署も人手不足に陥っているため、手が回らないことだと考えています。
――リスト公開後、SNS上では多くの反響がありました。ですが、一般的なブラック企業のイメージに反する工場なども多くリスト入りしていたため、「掲載企業が思っていたものと違う」「もっと悪質なケースを知っている」と反応するユーザーもいました。
新田氏:リスト掲載企業は約500社ありますが、その多くは危険な環境で労働者を作業させ、労働安全衛生法に違反した企業が占めています。従業員に長時間労働などを課し、労働基準法違反で送検された企業は5分の1程度です。
今後は消費者にとって身近なオフィスワーク系の企業もリストに載せられるよう、労基署はどんどん悪質な企業を摘発してほしい。労働問題に苦しむ従業員も、どんどん証拠を押さえて告発すべきだと考えています。
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