中国製EVに日本市場は席巻されるのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
「日本車が中国製の電気自動車にやられたりする心配はないの?」。最近何度かそんな質問を受けた。本気でそんな心配している人は本当にいるらしい。
政治は共産主義、経済は自由主義
政治は共産主義、経済は自由主義という二面統治を行ってきた矛盾がここで表面化するのだ。党による企業の管理を優先するなら製造業は国内にとどめなくてはならない。だから中国政府は現在資本流出を食い止める資本規制を強める姿勢を見せている。
つまり、グローバルな競争を行うのに自ら手足を縛って経営オプションを狭めているのだ。仮に人件費や租税の面で不利であったとしても、中国国内生産を続ける強いプレッシャーがかかり続けるだろう。
その厳しい条件をクリアして国内生産を維持したとしても、そんなことを続ければ遠からず為替の問題が発生するだろう。現在、中国政府は人民元を国際的な基軸通貨にしようと目論んでいるが、経済成長が続けば当然通貨は上がる。元高になるのだが、当然これは輸出にとってマイナスだ。通貨相場制度は経済のスタビライザーなので原理通りに作動していることになる。
中国が国内でのみで生産を続け、輸出を有利にするために意図的に元安を維持しようすれば、本来マーケットで調整されるべき為替のひずみを増大させていくことになり、世界中の投機筋はそれを収益機会と捉えてさまざまな手を打ってくると思われる。結果としてイングランド銀行とジョージ・ソロスが引き起こしたような通貨戦争が引き起こされる可能性を孕み続けることになる。
日本の場合もそうだったが、実業でモノを売れば当然決済をしなければならない。「今は為替が高いから買わない」というわけにはいかない。そんなわけで中国当局は為替の変動幅に上限を設けて防衛を図っている。そのために為替の完全自由相場制に移行できないばかりか、当局が度々為替に介入することで市場の信頼を失っている。せっかくIMF(国際通貨基金)の仮想通貨に組み込まれたにもかかわらず、まだ基軸通貨としての安定した地位が築けていない。
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