熊本経済を元気に! 震災で生まれたくまもとDMCの使命感:「日本初」の挑戦(2/3 ページ)
2016年4月に起きた熊本地震は地元経済に大きなダメージを与えた。そうした中で誕生したのが、観光振興会社のくまもとDMCだ。同社が他の日本版DMO(目的地型観光振興会社)と異なるのは民間企業であること。それは何を意味するのだろうか。
自治体同士をつなぐ
そうした中でくまもとDMCは何に取り組んできたのだろうか。
1つは県内の自治体同士をつなぐことだ。従来はたとえ隣町であったとしても共同でイベントやサービスなどを立ち上げることはほとんどなかった。しかし、観光面で考えたとき、“縦割り行政”でサービスがなされていては、広域エリアを自由に移動する観光客にとって不便極まりない。行政主導の観光施策はユーザー視点に欠けるということの表れである。
例えば、阿蘇山の周辺エリアは複数の町から成るが、地形的に交通が分断されていたため、それぞれが独自に発展してきた歴史的背景があるという。従って、一堂に会して阿蘇エリア全体のことを考えるのはほぼなかった。その間にくまもとDMCが入り、コーディネーターとして各自治体をつなげる役割を果たすようになった。
コーディネーターとしての具体的な成果は17年10月に開催した「第1回熊本復興祈念ロードフェスタ」だろう。これは西原村、御船町、嘉島町、益城町を舞台に行われた自転車レースで、参加者に復旧・復興作業が続く熊本の今を見てほしいという目的があった。ただし、当初は自治体同士の連携がなかったため、起案した1つの町の中で同じコースをぐるぐると回るような計画だった。隣接する自治体も「予算がないから企画に乗れない」「お金を負担してくれるなら参画する」などと後ろ向きだった。これではうまくいくはずがないと、くまもとDMCが調整役となって開催にこぎつけた経緯がある。
「レースをするなら警察に許可をもらい道路を通行止めしなければなりません。それもくまもとDMCが中心になって行いました。ただ、今回は私自身も各自治体を回って説得に当たりましたが、まだ余力がないということで本当の意味で町と一緒にイベントを作ることは叶いませんでした。来年以降はすべての町とスクラムを組めるように仕掛けていきたいです」(梅本副社長)
付加価値の高いオプショナルツアーを
もう1つ、くまもとDMCが取り組んだのは、インバウンド観光客向けの施策である。現在熊本は、八代港に中国などからのクルーズ船が寄港したり、熊本空港に韓国や香港からのLCC(格安航空会社)が発着したりと、アジアを中心とする海外観光客が増えている。16年の外国人宿泊者数は約48万人で、19年にはこれを120万人にする目標である。しかしながら、これまでは彼らの受け入れ態勢が整っておらず、観光ガイドや土産販売などの面で大きな機会損失があったという。
そこでくまもとDMCは多言語対応のコンタクトセンターを設けて海外観光客の受け入れ態勢を強化したほか、特に数の多い中国人観光客の買い物をフォローするため、熊本市の店舗に「Alipay」や「WeChat Pay」といったモバイル決済の端末を導入した。
「中国はキャッシュレスが進んでいて、観光客も現金を持っていない人が多いです。そこで今年10月から実証実験で熊本城のふもとにある飲食・土産エリアの『城彩苑』や市内の商店街など数十店舗に端末を入れています。既に2700件(17年11月末時点)の利用があり、手応えを感じています」と浦上英樹専務取締役は話す。今後はクルーズ船がやって来る八代の商店街などにも導入を広げていく予定だという。
県内の観光資源にももっと付加価値を与える考えだ。例えば、欧米の富裕層向けのオプショナルツアーとして熱気球体験を売り出したいという。現在も既に阿蘇エリアで熱気球に乗ることができるが、料金は2000円程度。この価格は安すぎるとくまもとDMCは見ている。「海外だと熱気球に乗るようなオプショナルツアーは2万円を超すものもざらにありますが、多くの観光客は喜んで参加しています。観光商品は安いから人気があるとは必ずしも言えません。英語が話せるツアーガイドが同行するなど付加価値を高めれば、もっと料金を高めに設定しても観光客は満足してくれるはずです」と浦上専務は述べる。そして、その熱気球が観光ビジネスになれば、ここで働きたいという若者も出てくるのではと、雇用や移住の促進にも期待する。
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