好調な沖縄観光産業、しかし課題も噴出:沖縄観光コンベンションビューロー会長に聞く(1/3 ページ)
沖縄県が観光収入、観光客数ともに4年連続で過去最高を更新中。2020年度には1兆1000億円、1200万人と高い目標を掲げる。しかし好調が続く一方で、さまざまな課題も表面化している。
沖縄県が観光収入、観光客数ともに4年連続で過去最高を更新中だ。
2016年度の観光収入は前年度比9.6%増の6602億9400万円、観光客数は同10.5%増の876万9200人となった。観光客の内訳を見ると国内客は664万100人(前年度から37万4100人増)、外国客は212万9100人(同45万8800人)。特に外国客の伸びが著しく、2011年から5年間で約5.5倍に増えた。訪日外国人による「爆買い」ブームが一服したとはいえ、インバウンドそのものは今なお活況なのだ。
17年度の観光客数は950万人(外国客は265万人)を目標に掲げているが、11月末時点で660万人を超えている。沖縄の観光推進団体である沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)の平良朝敬会長は今年度も達成はまず間違いないと見る。同県は20年度に観光客数1200万人、観光収入1兆1000億円を目指しており、現状はあくまで通過点にすぎないといった様子だ。
この数年の外国人急増の背景には、台湾や香港からのリピーターの増加や、若者の客層が増えていることがあるという。「例えば、台湾から沖縄にネイルサロンやヘアーサロンのためだけに来る若い女性は少なくありません。外国だけども距離が近いので気軽にやって来るのです」と平良会長は話す。
空港問題
では、沖縄の観光産業は左うちわで、今後も向かうところ敵なしなのかというと、そうとも言えない深刻な事情がある。観光客の急増に伴って受け入れのためのインフラが悲鳴を上げているのだ。その1つが空港である。
那覇空港は現在、国内は25路線(県内除く)、海外は台湾や韓国、シンガポールなどを結ぶ16路線で、海外路線は週に190便以上が乗り入れる。地方空港でこれだけの路線を持つのはトップクラスで、自衛隊機や貨物機などを合わせた発着回数は約15万8000回に上る。しかしながら、那覇空港には3000メートル×45メートルの滑走路が1本しかないため、実のところ発着回数のピークはとうに過ぎているのだ。何とかむりくりに運用しているのが現状である。
そのため那覇空港は第2滑走路の建設を急ぐが、完成は20年3月の予定で、この間をどう乗り切ればいいのか関係者は頭を抱える。また、新しい滑走路ができても、単純に空港の能力が倍になるわけではない。試算によると、発着回数の増加は3万5000回で、現状の4分の1にとどまる。「2本の滑走路ができても、当然ながらスポット(駐機場)やボーディング・ブリッジが足りず、駐機場に向かうときに飛行機を止める運用にならざるを得ません」と平良会長は吐露する。
問題は空港の中だけではない。空港の外でも大混乱が起きている。国内の主要空港であり、年間約2000万人が利用するのにもかかわらず、空港の敷地内は狭く、車線も少ない。そのためハイシーズンや時間帯によっては、送迎のための自家用車やタクシー、バスが長蛇の列をなして渋滞する。例えば、レンタカーの営業所に顧客を連れていくためのバンがなかなか空港に入れず、レンタカーを借りるのに2〜3時間かかったというクレームは1つや2つではないそうだ。「特別な用事がない限り、クルマで空港周辺には近づきたくない」と那覇市内で住むある男性は苦笑する。
このような惨状に対して、バス会社やレンタカー会社は県に「どうにかしてくれ」と訴えるそうだが、平良会長は「業者の甘えだ」とバッサリ切り捨てる。
「行政が悪いからと苦情を言うのではなく、それぞれの事業者が知恵を出し合って、お互いに協力して解決するのが筋。例えば、ホテルのフロントで客の列が長いから、県に対して何とかしてくれと言うでしょうか? 観光客の恩恵を受けているのであれば、それにかかわる問題解決も自助努力しないと。客が来なければ文句を言い、たくさん来て混んだら文句を言う。こんなのはあり得ない話です」と平良会長は語気を強める。
とはいえ、現実問題として物理的に空港のキャパシティは限界を迎えており、タクシーやレンタカーなど事業者の言い分も分かる。効率的に顧客をさばこうと努力しても、それ以上に多くの顧客が押し寄せて来るからだ。
そうした中、行政と事業者は協力していくつかの実証実験に取り組んでいる。昨年夏、レンタカーの送迎場所の混雑を緩和するため、空港出口付近に専用バス乗り場を設け、そこから空港近くの「波の上うみそら公園」に期間限定で開設した営業所にバスで送客したり、空港と付近のレンタカー営業所を無料の路線バスでつないだりした。
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