クルマはこれからもスポーツであり続けられるか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
マツダは何のために毎年雪上試乗会を行うのか? それは躍度についての理解を深めるためだと筆者は思う。では、マツダの志す「意のままの走り」とは一体何だろうか?
マツダは今年もジャーナリスト向けに雪上試乗会を開催した。自動車メーカーはどこもそうだが、氷雪路でテストするための専用コースを持っている。マツダの場合、北海道・旭川から50キロほど北上した剣淵町にこの冬季テストコースはある。
町から借り受けた山には長く広い直線路やパイロンを置いてジムカーナコースのようにできる広場のほか、山肌を縫ってアップダウンする林道を利用したワインディングコースもある。
2年前の雪上試乗会では新しい高効率AWDシステムであるi-ACTIV AWDの技術説明とテストが行われた。余談になるがi-ACTIV AWDの考え方は面白いので、ちょっと触れておく。
マツダのAWDシステム
一般論で言えば、AWDはFFに比べて燃費が悪い。後輪に駆動力を伝えるためのプロペラシャフトやセンターデフ、リヤデフとドライブシャフトなどのそれなりに重量のある部品を加速のたびに回さなくてはならないので当然である。
ところが、マツダは「FFより燃費の良いAWDを目指す」と言うのだ。例によって第一印象は訳の分からない話だが、聞いてみるとそうでもない。
路面の摩擦係数が低い凍結路では、FFの場合どうしてもスリップが起こる。どんなに細心の注意を払って運転したところでその滑りはゼロにはならない。AWDの追加パーツは確かに重いが、スリップによるロスや、重たいタイヤ+ホイールを空回りさせる力をロスすることを思えば、駆動がより強く掛かるAWDの方が燃費が良くなるはずだ。マツダはそう考えた。
そう仮定すれば対策は決まっている。AWDのための追加パーツの軽量化と摩擦低減だ。マツダはプロペラシャフトの軽量化をはじめ、各部の摺動抵抗削減を地道に実行した。果てはリヤデフの小型化とデフギヤがかき回すオイルの流れまで整流して、ロスを徹底的に減らした。
選ばれたシステムは電制多板式クラッチを電磁石で圧着させて、前後駆動力を連続変化させる方式だ。20個のセンサーからの情報を毎秒200回演算して制御する。その上で「少しも滑らせないためにどうするか」を考えた。
i-ACTIV AWDは基本FFであり、オンデマンドでリヤタイヤに駆動力を配分するが、デフォルトを100:0にすると、フロントが滑り始めてからリヤに駆動力をつなぐときに段差感が出るし、システム上最初の滑りを許容することになる。そこでi-ACTIV AWDでは基本配分を99:1にした。つまり切り替えによる激変を嫌って、「全てを線形変化」、つまり急変のない連続的な変化にしたわけだ。これが初期滑りを抑制して燃費に効くだけでなく、切り替え的変化が起きないため圧倒的にフィールが良くなり、しかも全てが電制任せでドライバーは運転に集中できるというわけである。
それで本当にAWDの方が燃費が良いなどということが起きるのかと言えば、条件が悪い場面に限れば本当にAWDの方が燃費が良くなっているそうだ。
ユーザーは、そんな限定的な場面での燃費を理由にわざわざ価格の高いAWDを選ばないだろうが、居住地域の冬場の路面状況によっては、否応なくAWDを選ばざるを得ない。FFという選択肢は最初からないのだ。同じAWDで実用燃費に差が出るなら、SKYACTIV-AWDを選ぶというユーザーもいるだろう。マツダはFFとAWDの比較をするが、それはある意味理想の話であって、本来的な価値は凍結路での実用燃費が高いAWDというところにSKYACTIV-AWDの価値はある。
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