クルマはこれからもスポーツであり続けられるか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
マツダは何のために毎年雪上試乗会を行うのか? それは躍度についての理解を深めるためだと筆者は思う。では、マツダの志す「意のままの走り」とは一体何だろうか?
「意のまま」って一体何だ?
さて、昨年末もまた雪上試乗会が行われたわけだが、そこではAWDシステムの話は出ていない。とすれば、マツダは一体何のために毎年雪上試乗会を行うのか?
それはこの原稿の主題でもある躍度(やくど)についての理解を深めるためだと筆者は思っている。マツダの志す「意のままの走り」は、突き詰めて言えばスポーツ性を意味する。一般にスポーツと言うと、やみくもにアクセルを踏んで派手にドリフトして走るようなことを思い浮かべる人も多いだろうが、それはスポーツ性のごく限られた一部でしかない。
マツダが言う「意のままの走り」は速度に多くを依存しない。これは実際にマツダのエンジニアが口にした言葉だが「コンビニの駐車場から出るときにもスポーツである」ことを目的としている。
さて、躍度とは多くの人が聞きなれない言葉だと思うが、これを「所用時間あたりの距離の変化量が速度。所用時間あたりの速度の変化量が加速度。所要時間あたりの加速度の変化量が躍度。距離を時間の関数として1回微分すると速度、2回微分すると加速度、そして3回微分すると躍度になる」と書いて、「ああ、そうだよね」と分かる人にはこの先の説明は全部要らないだろう。かたや「?」という人にこれを物理の側から説明していくと教科書みたいになってしまう。それを面白く、分かりやすく書けるかどうか、マツダは書き手の腕を測っているのかもしれない。「任せろ!」と言うほど自信はないがやってみよう。
運転の楽しさとは何だろうか? つまるところ、それはコントロールである。ゲームでも何でもそうだが、簡単すぎるものはつまらない。飽きてしまう。かと言って難しすぎるものは嫌になってしまう。どちらもストレスだ。
運転して楽しくて仕方ない状態。それは移動のための「運転」という労務ではなく、「運転」そのものが楽しい状態だというところは、皆さんも異議がないだろう。
では何が楽しいのか? ものすごい加速度とか、ものすごい旋回力とか、そういう絶対値が高ければ楽しいのか? 多分そうではない。例えば、ボタンを押すと全てコンピュータ制御でタイヤの限界を使い切って猛烈に加速したり、同じく減速したり、曲がったりしたら満足するのだろうか? そこには満足はないだろう。ただ疲れるだけだ。
たまに体験するだけなら、飛行機の離陸(0.3G程度)とかでもそれなりにワクワクできるだろうが、では、あの離陸体験ができる装置をお金を出して買って、毎日楽しむかと言えば、ほとんどの人はノーだろう。
能動的な速度や加速体験は大して楽しくない。簡単すぎるゲームと同じであまり高いエンターテインメントを提供しない。あくまでも結果に自分が関与するから楽しいのだ。例えば、インパネに0.2Gの加速度のときだけ点灯するようなランプを装備して、加速も減速も旋回も、できるだけそのランプが消えないように運転せよと言われたら、それは結構楽しいゲームになるはずだ。
ドリフトのような場面では、自分が関与した操作が限界を超えるか超えないかがクルマの挙動で分かり易いから面白いわけで、実は自分のセンサーを研ぎ澄ませば速度なんか関係なくコントロールする面白さは味わえるはずなのだ。このコントロールを完全に掌握することこそ「意のまま」の正体である。
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