“善人が会社をダメにする”? プロ人事が説く「ビジネス界の逆説」:「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」
どんな同僚とも仲良くできる“善人”は、本当に会社の役に立っているのか。人事のプロ・曽和利光氏の著書「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」によると、時に毛嫌いされる“悪人”が企業に貢献するケースがあるという。
どんな同僚とも仲良くし、職場の和を乱さない“善人”が、時として企業の発展を妨げる――。リクルートなどで人事部門の責任者を歴任した曽和利光氏は、著書「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」(星海社、税別960円)でこう主張する。
曽和氏は、ミーティングなどで同僚に否定的な発言をせず、常に褒めたり同調したりする人を「一見すると利他的な“善人”だが、実は他人から好かれたい利己的な八方美人。組織にとってマイナスの存在になり得る」と切り捨てる。
一方、「間違った意見に堂々と苦言を呈す人や信念を貫く人は“悪人”だと毛嫌いされがちだが、実は会社を伸ばす可能性を秘めている」と説く。
現場にこだわるスター社員に、若手に道を譲るよう指示して周囲から嫌われた人、ある社内部署を廃して外部委託することを決め、「魂を売った」と中傷された人、可愛がっていた部下が大きなミスを犯した際、厳しく罰して「情がない」とたたかれた人――。
曽和氏はキャリアを通じて、こうした“悪人”たちが企業にプラスの結果をもたらす姿を目の当たりにしてきた。また、人材の資質にとどまらず、一般的に善いとされることが会社のためにならない「逆説」がしばしば起こることにも気付いた。
例えば、離職率の低い企業はビジネスパーソンから羨望(せんぼう)の目で見られがちだ。しかし、内部では入社時の序列が何年たっても変わらず、マンネリ化して新しい発想が生まれづらいと指摘。一定のペースで人の入れ替わりがある環境の方が成果を上げやすいと説明する。
若手・ベテランを問わず発言できる「風通しが良い会社」も人気だ。だが、曽和氏は「経験が浅い人や、思い込みで発言する人にも丁寧に対応する必要があり、コミュニケーションが非効率な環境だ」と指摘。ビジネスは真剣勝負の場であるため、安直な発言が許されない厳しい環境こそが社員の成長につながると説明している。
こうしたビジネス界の通念にメスを入れる本書は、働く上での判断基準を見つめ直すきっかけをくれる1冊だ。
関連記事
- アドラーの岸見一郎さんに聞く、職場で嫌われる勇気
2013年に発売された書籍『嫌われる勇気』が、いまも売れている。ビジネス書のランキングでみると、4年連続でトップ3入りしていて、この数字は史上初の快挙だという。本書は対人関係の接し方などを深く掘り下げているが、職場での嫌な上司にどのように対応すればいいのか。著者の岸見一郎さんに聞いた。 - 社畜が悪いのではない “ダメな社畜”がいかんのだ
「自由な働き方をしましょう」と言われても、いきなり会社から離れるのは困難だ。手っ取り早く幸せになる方法は、今の会社で楽しく生きる方法を発見することではないだろうか。 - “残業減ると競争が激しくなる”? 「働き方改革」のオモテとウラ
2017年は「働き方改革」が大きな注目を集めた。多くの企業がテレワークなどの施策を取り入れ、労働時間の短縮を図った。この流れがさらに加速する18年、ビジネス界はどう変わるのだろうか。 - なぜベンチャーの社員は“イケてる風”に見えるのか
ベンチャーに対して「イキイキしていて、活躍している」といったイメージを持っている人が多い。しかしそれは、「頑張っている自分」を演じざるを得ない部分があるからではないかと私は見ている。 - 日本の働き方改革が「はっきり言ってダメ」なワケ
「日本人の働き方改革は、短期的な視点しかない」――そう厳しい指摘を飛ばすのは、モルガン・スタンレーやGoogleで人材開発に携わった経験を持つピョートル氏だ。どうすれば日本の働き方は変わるのか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.