雪上試乗会で考えるスバルの未来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
スバルは、青森市内から八甲田山、十和田湖を経由して安比高原までのコースを走るアドベンチャー試乗会を開催した。日本屈指の過酷な積雪ルートでスバル自慢のAWDを検証してくれというわけだ。
全ての人に良いクルマ
スバルは基本的には実直なメーカーだと思うし、技術的にも優秀だと思っている。ただ、誰のためにクルマを作っているのかという部分で、車種によっては気になるときがある。今回の挙動についても、熱心なスバリストは「スバルは積極的に踏んでいくクルマ。そうやって運転すれば問題ない」とか「低速でも適切なタイミングで適切に切り増せば問題ない。それはドライバーの技量の問題だ」と言うだろう。
スバルがそういうスバリストだけに向けてクルマを作っていくのであれば、それでも良いだろう。ただ、自動車産業に未曾有の変革が訪れている今、本当にそれで生き残れるのかは熟考した方が良いと思う。
実際この話が一段落した後、世間話の中で、エンジニアの1人が「ウチのユーザーは運転がうまいんですよ」と笑いながら言った。特に意図のない、何気ない一言なのだろうが、そここそが今のスバルの問題点で、エンジニアとスバリストが共依存関係にあることの証左でもある。
スバルは今、生まれ変わり、「モノからコトへ」、あるいは「安心と愉しさ」を主張している。それは誰に向けた言葉なのか、そこをもう一度確認すべきだと思う。筆者は「全ての人に」であるべきだと強く思っている。そしてスバルはそこに目を向けさえすれば全ての人に安心と愉しさを提供するクルマを作るだけの技術力はあるはずである。
それはXVの実直なハンドリングを見れば分かる。インプレッサと共通の新世代プラットフォームであるスバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)を使うXVはどんな速度でも信頼して運転できた。われわれが乗ったXVの2.0には、インプレッサ同様、アクティブ・トルクベクタリングが装備されている。しかし、ここまで問題にしてきたアンダー・オーバーステアはXVでは全く顔を見せなかったのである。どんな速度域でもドライバーの意図した通りにクルマは動く。こういうセッティングもできるではないか。
セッティングが具体的にどう違うかは残念ながらブラックボックスの中であり、筆者にも分からない。強いて言えば、インプレッサの方がスポーティーな味付けのようにも思えた。もしかしたらテストコースのようなシチュエーションで限界走行を試したら、攻めたセッティングのインプレッサの方が速いのかもしれないが、そんな領域は普通の人は使わない。
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