燃料電池は終わったのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
2014年末にトヨタが世に送り出したMIRAIだが、最近話題に上ることは少なくなった。「燃料電池は終わった」とか「トヨタは選択を間違った」としたり顔で言う人が増えつつある。実のところはどうなのだろうか。
そしてトヨタは現在、横浜・川崎エリアで水素の実用化に向けた新しい実証実験を行なっている。港湾エリアに風力発電機を設け、そこで発電した電気で水素を生成している。風力なので当然稼働しない時間もある。そこではプリウスのバッテリーをリユースした大容量のバッテリーを備え、風車のリアルタイム発電と補完しながら常時水素を作り続けることができる。できた水素は2トントラックの水素デリバリー車で、周辺の協力工場に定期配送される。稼働しているのはフォークリフトで、MIRAIのFCスタックを備え、工場内でゼロエミッション稼働できる。
最初から電気で送電しないのはなぜかと言えば、風力発電の最大の問題は風任せな点にあるからだ。インフラが電力を必要としてない時間に風が吹いたら無駄になってしまう。それを水素に変換することで蓄電するという考え方だと言える。
さらに19年からはセブン‐イレブンとジョイントしてFCVトラックによる物流と、店舗電力の燃料電池化の実験も行う。こうしたプロツールをきっかけにインフラを拡大していく先に、恐らく乗用車のFCV化の道がついていくだろう。それでも高圧タンクの問題はまだ残るが、こちらについては朗報もある。トルエンに水素を反応させることで体積を500分の1に圧縮できるという技術を研究中である。これが実用化されれば、従来のガソリンのインフラで水素を扱うことが可能になるはずで、水素の最大の問題が解決されるかもしれない。
クルマが全部EVになるとか、そういう一色で塗りつぶされた未来像は分かりやすいが、そんな未来はきっと来ない。現在でもガソリンとディーゼルがすみ分けているように、EVやFCV、ハイブリッドなどさまざまな動力機構が、適材適所で徐々に発展していくのがリアルな世界である。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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