「FGO」運営のディライトワークスが、大阪成蹊大学と提携するワケ:「塩川超え」の学生は生まれるか
大ヒットスマホゲーム「Fate/Grand Order」の開発会社が大阪成蹊大学と提携し、ゲーム業界でプロとして通用する人材を育成する。両者の狙いとは?
人気スマートフォンゲーム「Fate/Grand Order(FGO)」の開発・運営のディライトワークスが、教育機関との取り組みに乗り出した。3月13日、ディライトワークスと大阪成蹊大学が連携協定を締結。大阪成蹊大学が2019年4月に開設する「ゲーム・アプリケーションコース」において、ディライトワークスの現役クリエイターが講師として参加し、ゲーム業界でプロとして通用する人材を育成するという。
ディライトワークスは14年に創業。手掛けたゲーム「FGO」が大ヒットし、国内累計ダウンロードは1200万件を突破した。国内のみならず、米国、中国、韓国、台湾、香港、マカオ――と海外展開も進めている。同社の庄司顕仁社長は「ゲーム開発を行う上で、『クリエイターの育成』という課題に日々直面している。これまで独自に社内外に向けて取り組んでいたが、今回本格的に『大学と協力しての教育』という形で取り組みをするに至った。若いクリエイターに向けてできることをしていきたい」と話す。
コースの定員は25人を予定。(1)最新の制作現場のノウハウを体験できる実践的な学習環境、(2)1年次に基礎を身に付け、2〜4年次で実習を繰り返すカリキュラム、(3)「問題解決力」や「チーム運営能力」を鍛える――を売りにし、ゲーム業界を目指す学生に向けてアピールする。インターンなどの受け入れも視野に入れるという。
企業・自治体と提携する大阪成蹊大学
大阪成蹊大学は、現在「マネジメント学部」「教育学部」「芸術学部」を開設。特徴的なのは、「マンガ・デジタルアートコース」「アニメーション・キャラクターデザインコース」などを擁する芸術学部だ。4年制の大学でありながらも、クリエイティブな業界に関する専門的な授業が受けられることが好評で、少子化の中でも学生数が増えている。
同大学は、企業・自治体と提携した取り組みも積極的に行ってきた。大学1〜2年生の段階で、川崎重工業、JR西日本、大阪市などの課題をデザインで解決する実践型の授業を行い、実際に企業や市にアイデアが採用、運用されている実績もある。また、関西のアニメ制作会社へのインターンなどを通して、卒業と同時に“即戦力”として働くことになった卒業生もいる。
実践経験があることが後押しし、「マンガ・デジタルアートコース」や「アニメーション・キャラクターデザインコース」の就職率をみると、この2年はほぼ100%だという。ディライトワークスとの提携も、こうした取り組みの一環だ。
芸術学部学部長の門脇英純さんは「4年制だからこそできることをやっていきたい。現場の最前線で働いているクリエイターに教壇に立っていただき、専門的な技術を学びながらも、コミュニケーション力や社会で通用する人間力を育んでいければ。4年間で学生は大きく変化する」と話す。
ディライトワークスの“メリット”は
コース開設に先駆け、18年からディライトワークス 執行役員クリエイティブオフィサーの塩川洋介さんが客員教授に就任する。もともと提携のきっかけになったのは、塩川さんのオープンキャンパスでの講義だった。
「ファンタシースターオンライン」「ギルティギアシリーズ」に携わり、現在同大学で准教授を務める川和夕記さんは「一緒に仕事をした際に、『塩川さんのものづくりは本質的だ』と感銘を受けた。ぜひ本学の学生に教えてもらいたいと思い、17年にオープンキャンパスに来てもらった。そこで学生や入学希望者からの反響が大きかったことで、提携の話が進んだ」と経緯を説明する。
塩川さんは「日本のゲーム教育を変えたい」と熱を込めて話す。米国に留学中、トップクリエイターが教育現場で教えているのを目の当たりにし、驚いたのだという。「現場のクリエイターが業界を目指す学生に教えることが当たり前になったらいいなという思いを抱いている。大学では、学生に対するというよりも、ディライトワークスの若手に対するような態度でいろんなことを話していきたい」と意気込む。
まさに現在進行形で成長している新興のゲーム会社にとって、教育機関との取り組みはどういったプラス効果があるのだろうか。短期的に見れば、優秀な人材が各企業で取り合いになっている“売り手市場”の中、意欲ある優秀な学生の囲い込みもできそうだが、庄司社長は「短期的というよりは、中長期的なメリット」と話す。
「日本でゲーム産業が成長し、海外に輸出するコンテンツビジネスとしても存在感が増している。しかし、ゲーム業界の人材を育成する教育はあまり整理されておらず、個々の専門学校の教育や企業内でのOJTが中心なのが現状。もっと基礎的なところから教育があるべきだと課題意識をもっていたため、今回二つ返事で提携を決めた」(庄司社長)
さらに、現在同社で働いているクリエイターにもプラス効果があると見込む。「塩川をはじめ、当社のスタッフが講師として参加する。学生に教えていくうちに、彼ら自身にも得られない気付き、学びが得られるのではないか。教えるだけではなく、学生から教わることも多いと期待している」
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