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新幹線台車亀裂、川崎重工だけの過失だろうか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
山陽新幹線で異臭を発した「のぞみ34号」について、東海道新幹線名古屋駅で台車に傷が見つかった。JR西日本の危機認識、川崎重工の製造工程のミス、そして、日本車輌製台車からも傷が見つかった。それぞれ改善すべき問題があるけれども、もう1つ重大な問題が見過ごされている。「納品検査」だ。
新幹線には「安全神話」という言葉がある。非常列車停止装置や広範囲に設置された地震計など、「危険を察知したら止める」という仕組みが何重にも施されている。無事故、事故死傷者なし。だから新幹線は安全、安心な乗りもの、というわけだ。
まるで神の采配のように言うけれど、これらの安全システムは神ではなく、人が考案、運用してきた。だから、安全を維持するためには人のたゆまぬ努力が必要だ。それを「神話」とくくってしまうと妄信が始まる。努力を怠るようになる。
自動車業界に「安全神話」という言葉はない。航空業界にもない。検索してみたら、鉄道業界の他にもう1つ見つかった。原子力発電だ。「安全神話」という言葉は「使い始めたら危険が始まる」という信号かもしれない。
2017年12月に起きた新幹線「のぞみ34号」の台車亀裂事件は、調査が進むにつれて芋づる式に問題点が発覚している。JR西日本の対応、川崎重工の製造工程、そして問題は他社製台車の問題発覚まで広がった。
JR東海は「念のため交換し、検査しました。傷はありましたが問題ないレベルでした」という。日ごろから入念にチェックして運行しているから、危険レベルまで察知したら対処する。現状では問題ない。
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