JR西日本、東急電鉄の事故から私たちが学ぶこと:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
JR西日本の新幹線車両台車破損、東急電鉄のケーブル火災から私たちが参考にできることもある。クルマの運行前点検とタコ足配線の見直しをした者だけが石を投げなさい。
企業や個人が失敗した。トラブルを起こした。その事件に対する批判は誰にでもできる。しかし、その批判に同調したり、反論したりという過程に生産性はないと思う。それはもはや言論エンターテインメントであり、ぶっちゃけ暇つぶしだ。
事故やトラブルの情報は、それだけでは価値がない。何度か書いてきたように、鉄道に限らず、火事だ、交通事故だという報道は、原因まできちんと追わなければやじ馬記事であり暇つぶしのタネにしかならない。原因まで伝えて、その情報を基に「同じ愚を繰り返さないように」と参考にできる。「ここで事故がありました」というだけでは、また同じ場所で事故が起きるだろう。
原因究明前の事故の話は時期尚早だ。しかし、いまから私たちが参考にできることもある。最近ではJR西日本の新幹線車両台車破損、東急電鉄のケーブル火災だ。
12月11日、JR西日本の新幹線車両が異臭発生という異常を検知したまま走行。名古屋駅に到着した際にJR東海によって運行中止が決定された。点検の結果、台車のギアボックスから油漏れが見つかった。運行中止後の調査で、台車の側バリと呼ばれる主要構造部に亀裂が見つかり、破断寸前だった。
もし破断していれば、時速300キロで脱線したかもしれない。大事故の予兆を予見できなかったJR西日本は責められて仕方ないし、異臭の段階で運行停止を決断できたJR東海は良い仕事をした。JR東海にしてみれば当たり前のことだったと思うけれども。
この段階で、少々の異臭程度なら走らせてしまうJR西日本と、少しの異常でも列車を停めるJR東海の温度差が表れた。
JR西日本は福知山線尼崎脱線事故の教訓から、安全面の対策、教育をしてきたはずだ。運転席にさまざまな警告装置が搭載されており、運行中は警報音、男性、女性の音声による注意喚起が行われる。それは客室にも聞こえるほど大きくうるさいけれど、安全への取り組みをうかがわせる。しかし、今回の件で、安全施策に対する詰めの甘さが出てしまったようだ。機械による警告は尊重できても、異臭という、人間の五感が発する警告には鈍感だったと思われる。
一方で、JR東海の危機管理は徹底している。長らく新幹線に関する報道を俯瞰し、鉄道関係者や周辺からもさまざまなエピソードを聞いている。それはもう、品川駅設置のJR東日本とのあつれきとか、JR東海が都内某所の再開発について、新幹線線路回りの工事許可を出さないというウワサとか、やりすぎの批判もある。しかし、私の印象として、JR東海は東海道新幹線を自社の営業路線という以上の誇りと責任を持って運行している。それは東京と大阪を結ぶ高速鉄道が、自社の利益だけではなく、国益の根幹だと理解しているからだ。
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