JR西日本、東急電鉄の事故から私たちが学ぶこと:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
JR西日本の新幹線車両台車破損、東急電鉄のケーブル火災から私たちが参考にできることもある。クルマの運行前点検とタコ足配線の見直しをした者だけが石を投げなさい。
点検と異常察知の“鈍感”が危ない
この夏、JR東海の大井車両基地で、東海道新幹線車両の点検を取材させていただいた。JTB時刻表9月号の巻頭カラーページで紹介するためだ。その中に台車に関する点検があった。打音検査だ。台車を1つ1つ、担当者が金づちでたたいて点検する。たたく場所も決まっていて、1つの台車につき130カ所以上もあるという。
台車の打音検査はセンサーには頼らない。アナログ感の極まるところだ。しかしこれは素人の私にも異常がハッキリ分かる。正しく締め付けられたボルト、亀裂のない場所は、キンキンと高い音が出る。再現してもらったけれど、ボルトの緩みや亀裂などがあると、打音がかなり低くなる。その差を例えるなら、トライアングルと木魚ほど違う。
もし、打音で異常が出た場合はどうなるか聞いた。まず上司を呼び異常を再度確認。この段階で、本当に異常があるか、担当者の耳に異常が発生したかを見極める。異常だと判明した場合は技術担当を呼び、修理または交換の判断をする。当該車両は運行中止となり、予備の編成が代走する。
JR西日本の会見によると、仕業点検はJR東海が東京で実施したという。のぞみ34号は博多駅の13番線ホームから出発している。時刻表を参照すると、東京駅午前8時10分発、博多駅13番ホームに午後1時10分着となる、のぞみ15号が見つかった。この列車の折り返しがのぞみ34号になる。のぞみ15号として出発する前に、大井車両基地で点検後に出庫した。あるいは、静岡発午前6時22分の東京行きこだま700号が東京駅17番ホームに午前7時37分に到着し、これがのぞみ15号になったか。いずれにしても、出発前点検はJR東海の管轄区域だ。
台車に14センチ、開口部13ミリの亀裂が、にわかにできたとは信じ難い。もし点検の異常なしを信じるなら、突然亀裂ができたことになり、問題は深刻だ。JR西日本は点検は目視によるもので、異常はなかったと発表している。台車の亀裂も名古屋停車時には発見できなかった。つまり、ヒビが入っていたとしても、停車中はピッタリと閉じていて発見できなかったと考えられる。もし打音検査を実施していたら発見できていたかもしれなかった。ここに検査方法見直しの余地はありそうだ。
次に、当該列車ののぞみ34号は、博多駅を午後1時33分に発車した後、まず20分後の小倉駅付近で乗務員が最初の異臭を感じている。この異臭は、走行に異常がなくても起こり得るか、そうでないかで判断が分かれる。換気装置があるし、沿線で火災や野焼きでもあれば焦げ臭いにおいは入り込む。そういう判断かもしれない。
岡山駅到着前には乗客から申告があり、車内に「もやがかかっている」状態だった。この時点で火災を疑い、停車時間を延ばしてでも詳細に点検すべきだった。もや、という視覚情報も信用しなかった。岡山から車両保守担当者も乗り込み、異音を確認したという。しかし、新大阪駅では異常なしと伝えた。ここでもうおかしい。
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