温泉街の小さな店に大行列 「熱海プリン」が生まれたワケ:6坪の店に熱気(2/2 ページ)
熱海の温泉街に生まれた「熱海プリン」が売れている。新たに「熱海の商店街で一番並ぶ店」となった熱海プリンが生まれたワケとは?
観光地で増える“単品専門店”
「熱海にお越しになられた方々の思い出づくりの1つとしてお役に立ちたいです」と語る熱海プリンの担当者。店舗の周りには、熱海プリンをお土産として持ち帰る人や、写真を撮りながら食べ歩きをする人の姿があった。新たな「熱海の名産品」として定着する日も近そうだ。
熱海プリンはなぜ成功したのか。船井総合研究所のフードSPAグループグループマネージャー 上席コンサルタントの花岡良輔さんは、「一番大きいのは熱海の商店街にプリン専門店がなかったこと。食べ歩きできるスイーツは温泉まんじゅうやソフトクリームなど、専門店だと磯揚げの『まる天』くらいしかありませんでした。そこに、熱海温泉にマッチしたコンセプトで、食べ歩き&お土産どちらの用途でもできるプリン専門店ができたことで、人気が出たのではないでしょうか」と分析する。
実は熱海プリンのように、観光地にオープンした「単品専門店」がヒットするケースが増えている。
「観光地の名物というと、温泉まんじゅうのような『その場で食べる』用、もしくは『持ち帰り専門』のどちらかしか満たせないものがほとんどでした。そこで、プリンやバウムクーヘンのようにその場で食べてもおいしく、持ち帰っても日持ちがする“ハイブリッド”な商品が注目されています。どちらの用途でも購入されるため、購入のニーズが広い商品の専門店が増えています」
例えばバウムクーヘンなら、日光の「バウムクーヘン工房 はちや」や沖縄の「ふくぎや」。プリンなら鎌倉の「マーロウ」や奈良の「大仏プリン」――観光地で単品のブランドを確立させた専門店がある。こうした成功を見て、他の観光地で参入する例が増えつつあるようだ。プリンやバウムクーヘンは製造が比較的簡単で、パートやアルバイトでも高品質のものを提供できるため、参入ハードルもそれほど高くない。
単品専門店で商品を購入する消費者のニーズとはどのようなものか。花岡さんは「観光地にはそう何度も足を運ばないので、事前にSNSなどで調べておき、『この土地のこの商品を食べよう』と目的を持って来店する傾向があります」と説明する。単品専門店は、さまざまな商品を扱っている店に比べ、1つの商品に対してこだわりがあるように見える。そのため、単品専門店の商品を手に取る観光客が増える――ということが言えそうだ。
観光地×菓子のマーケットはどうなるか
観光地の単品専門店増加の背景には、業界の変化もある。16年に食品表示法が改訂され、20年からは本格的に「製造者」と「販売者」の両方をパッケージに記載しなければいけなくなる。そうなると、パッケージだけ変えて中身は全国で同じである菓子(業界では「レール品」と呼ばれている)が今ほど売れなくなる。観光土産物市場の問屋・卸は、「地場のお土産を作らなければいけない」という問題意識を抱いているという。
また、既存の立地や方針では業績が上がりにくくなっている地域の菓子店が、新業態として観光土産物に進出するケースも増えていると花岡さんは話す。「地元のものをお土産として買いたい」というニーズと、これまでとは違う層に商品を売っていきたい店の狙いが重なり、新たな単品専門店が生まれるというわけだ。
こうした傾向は、20年に向けて継続、あるいはより強まっていくという。いずれは専門業態同士でのマーケットの奪い合いが発生する可能性はある。花岡さんが「『ご当地×カテゴリー』にはある程度限界があります。例えば熱海プリンが有名になったあとで、熱海にプリン専門店ブランドを立ち上げるのは難しくなるでしょう」と話すように、各観光地でいち早くブランドを構築できる店舗が強くなっていくだろう。
【訂正:2018年3月22日午前11時30分 初出で「温泉の蒸気を使ったプリン」としておりましたが、正しくは「温泉を使った『温泉玉子プリン』」でした。該当箇所を修正しました】
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