北海道新幹線札幌駅「大東案」は本当に建設できるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
もめにもめた北海道新幹線札幌駅問題は、JR北海道が土壇場で繰り出した「大東案」で関係者が合意した。決め手は「予算超過分はJR北海道が負担する」だった。これで決着した感があるけれども、建設業界筋からは「本当に作れるか」という疑問の声がある。
もめにもめた北海道新幹線札幌駅問題は、2012年に工事実施計画が認可された案「現駅在来線プラットホーム転用」をJR北海道がひっくり返し、とにかく認可案を避けるために代案を打ちまくった結果、3月29日の北海道新幹線建設促進北海道・札幌市調整会議(札幌駅ホーム位置に関する五者会議)にて、東案(その2)の採用が決まった。
東案(その2)は、15年にJR北海道が提案した「東案」の代案だ。「東案」は「在来線から遠い」として却下された。しかし東案(その2)は「東案」よりも在来線から遠い。通称「大東案」は、「東案」より規模が大きいという意味か、「さらに大きく東寄り」の意味か。後者であれば、かなり皮肉の効いた通称だ。公式資料では「大東案」という言葉は使われず、報道で使われている。つまりは皮肉である。
JR北海道に対抗して、鉄道・運輸機構は認可案を練り直した「認可見直し案」を提出していた。在来線に「接岸」するだけではなく、札幌駅を通る2本の地下鉄からも等距離である。これに対して東案(その2)は在来線から遠く、地下鉄南北線からは在来線プラットホームの長さと同じくらい離れている。
東案(その2)は鉄道のネットワークという観点からは懸け離れており、北海道新幹線の収益にも影響が出そうだ。それでもJR北海道が認可案を嫌がって不便な駅にしたがっている理由は、副業である小売、不動産業の売り上げを重視したからだ。それを記事でも指摘した(関連記事:新幹線札幌駅、こじれた本当の理由は「副業」の売り上げ)。
この記事が公開された3日後、3月12日の5者会議後の会見で、報道陣から物販と建設費負担の質問が出されている。また、記事内で指摘したワンスパンの跨線橋の構造にも質問が及んだ。
JR北海道は終始、検討会議でこの本音を出さなかった。JR北海道にしてみれば、北海道新幹線は開業初年度で54億円の赤字。営業収益の約116億円に対し、営業費用は約170億円。営業費用について、JR北海道が保有者の鉄道・運輸機構に支払う賃借料は年間1億1400万円だけ。総費用のうち1%に満たない。つまり、この費用は列車の運行、駅の管理にかかる。北海道新幹線は走らせるほど赤字である。赤字の線路のために、黒字の店舗をつぶされてたまるか、という話だ。
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