北海道新幹線札幌駅「大東案」は本当に建設できるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
もめにもめた北海道新幹線札幌駅問題は、JR北海道が土壇場で繰り出した「大東案」で関係者が合意した。決め手は「予算超過分はJR北海道が負担する」だった。これで決着した感があるけれども、建設業界筋からは「本当に作れるか」という疑問の声がある。
国民の駅、という認識がなかった
それじゃあ東案(その2)でも仕方ないな。とにかくJR北海道は赤字であり、本業の鉄道の維持すら困難だ。このままではJR北海道自体の存廃に関わる。JR北海道を支えていくならば、道民、国民の負担もあり得る。それを軽くするためにも、JR北海道は体力を付けなくてはいけない。……と思う向きもあるだろう。
しかし、そこまで思い至るのであれば、そもそも新幹線建設費に国民・道民の負担があることも忘れてはいけない。国土交通省のWebサイトによると、新幹線整備の財源について、以下のようになっている。
新幹線の建設にあたっては、国と沿線地方公共団体が公団に支出する補助金、東海道新幹線等既設新幹線をJRへ売却した代金の一部(いわゆる特定財源)、北陸新幹線高崎・長野間(長野行新幹線)のリース料も充てられています。(国土交通省)
国と地方公共団体の負担割合は2対1だ。つまり、新幹線の駅は国民・道民の財産でもある。新幹線札幌駅問題は、公金を投入する施設を、形式だけとはいえ民営化された企業の収支の都合で動かしていいのか、という問題でもあった。報道ではその観点がすっかり抜け落ちている。国有地を不当に安く民間に払い下げたとして大問題になっている事案と根っこは同じだ。JR北海道にとって副業は大事。収支に敏感だという考えは分かる。しかし、JR北海道への支援の枠組みと新幹線問題とは切り離して考えるべきだ。
東京・渋谷駅の埼京線プラットホームは山手線プラットホームから離れており、動く歩道が設置されている。それでも不便だという声があり、東急電鉄東横線渋谷駅の地下移転をきっかけに、山手線の真横に改造される工事が始まっている。なぜ新駅をわざわざ不便な場所に作るのか。将来、JRタワーの老朽化建て替えを待って移転させるつもりだろうか。
ともあれ、もう決まったことだ。札幌駅について後から文句を言っても仕方ない。今後の新幹線建設計画で今回の反省点を生かしてもらいたい。私は鉄道ファンとして、札幌駅は便利な認可案にしてほしかった。けれども、やはり鉄道ファンとして、決まったからには使いやすい、訪れて楽しい駅を作ってほしいとも思う。
落ち着いて考えれば、関東から北海道に行くなら、ほとんどの人々は飛行機を使うだろうし、私もたぶん、不便な駅なら初乗りの1回と、いつになるか分からない旭川延伸時しか利用しない。道外の人々にとってはその程度の問題か。同じくらい、道民も札幌市民も無関心だったかもしれない。だからこうなってしまったとも言えそうだ。
北海道の経済団体もおおむね東案(その2)を支持している。その理由は札幌駅東側の開発計画への期待だろう。新幹線札幌駅は道民の駅、札幌市民の駅というだけならそれでいい。しかし、国税を投入する国民の駅である。道民・札幌市民、地域経済だけの問題ではない。そもそも、ここまでこじれた3年間に、国交省は1度もパブリックコメントを実施していない。なぜ国民の声をすくい上げようとしなかったのだろう。
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