北海道新幹線札幌駅「大東案」は本当に建設できるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
もめにもめた北海道新幹線札幌駅問題は、JR北海道が土壇場で繰り出した「大東案」で関係者が合意した。決め手は「予算超過分はJR北海道が負担する」だった。これで決着した感があるけれども、建設業界筋からは「本当に作れるか」という疑問の声がある。
まだ「決定」ではない
ところが、せっかく合意した東案(その2)について、鉄道建設業界OBや鉄道・運輸機構内から「本当にJR北海道のもくろみ通り作れるか」という声が上がっているという。本当に作れるという条件が整わなければ、国が工事変更を認可しない。国としてみれば、いったん認可した案を覆されたわけだ。合意しました、はいそうですか、とはならない。これはメンツの問題ではなく、手続きの仕組みの問題である。
3月29日の5者会議資料の確認事項では、乗り換え跨線橋などの費用、施工はJRが実施すると明記された。これはJR側の在来線改良工事となるため、新幹線駅建設の関連資料から省かれている。しかし、この乗り換え跨線橋は構造的に無理があると指摘されている(関連リンク)。
認可見直し案で鉄道・運輸機構は在来線改良計画を示し、在来線の運行、増発に影響なしと示している。これに対してJR北海道は、東案(その2)の在来線乗り換え跨線橋の設計図面を示していない。動く歩道、エスカレーター、エレベーターの設置について、3月12日の5者会議後の会見で、JR北海道は巧みに避けていた。会見では、以下のようなやりとりがあった。
北海道新聞: 駅の利便性向上を札幌市から求められている。階段、エレベーターは設置するが、エスカレーターは設置しないという説明に受け取れた。設置しない可能性はあるのか、そのあたりの方向性はいつくらいに決まるのか。また、東口にVIP用の車寄せや貴賓室を設置する方針であったと思うが、一般の方向けに何か設置するといったことはあるか。
JR北海道: バリアフリー基準では、階段とエレベーターを設置することとなっている。乗り換え跨線橋から各ホームへ分散されるので、エレベーターで対応できるかを検討していき、利便性、工事費の両面から見ていきたい。比較設計には、荷重の検討にコンピュータ計算が必要であり、しばらく時間がかかる。一般の方向けの施設については、ランニングコストと利使性向上による利用者増を見ながら、今後検討していきたい。
北海道放送: 645億円には乗り換え跨線橋も含むとのことだが、乗り換え跨線橋分はどれくらいか。
JR北海道: 乗り換え跨線橋の内訳については差し控えたい。新幹線施設として、税金で整備されるものについては納税者の理解を得るためにも、開示していくべきであり、これまでもそのように対応してきた。ただし、乗り換え跨線橋はJRの工事として実施していくものであり、今後コストダウンのために競争入札をする予定だ。予定価格を公表するようなことは差し控えたい。
関連記事
- 新幹線札幌駅、こじれた本当の理由は「副業」の売り上げ
JR北海道は、当初の予定だった現駅案を頑固に否定し続けた。主な理由は「在来線の運行に支障が出る」「プラットホームの広さを確保したい」としてきた。しかし、真の理由は他にある。「エキナカ、エキシタショップの売り上げが減る」だ。JR北海道の10年間の副業を守るために、新幹線駅は未来永劫、不便な駅になろうとしている。 - 日本ハム本拠地移転、JR北海道はチャンスを生かせるか
日本ハムが本拠地球場を北広島市へ移転するという。新たな拠点はJR千歳線の線路ぎわだ。しかしJR北海道社長は新駅設置に慎重な姿勢と報道されている。素直に北広島市の歓迎ムードに乗じておけばイメージアップにつながるだろうに。残念な発言だ。 - 北海道新幹線「札幌駅」地下案はダメ、ゼッタイ!
北海道新幹線の札幌駅プラットホームは、2012年に在来線プラットホームを転用する案で工事計画が認可された。しかし2年前の夏、JR北海道が原案をひっくり返してから大混乱に。このままでは妥協案として、かなり不便な地下駅になりそうだ。新幹線地下駅は北海道を死に導く。そこは、最善の選択ができなかった愚か者たちの棺おけも同然のハコになるだろう。 - 「札幌駅に北海道新幹線のホームを作れない」は本当か?
JR北海道が「北海道新幹線の札幌駅は在来線に隣接できない」と言い出した。既定路線の撤回であり、乗り換えの利便性も低下する。札幌市と建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が反発している。JR北海道の言い分「在来線の運行に支障がある」、これは本当だろうか。駅の線路配線図とダイヤから検証してみよう。 - きっぷをカプセルトイで売ってはいけない、なぜ?
JR北海道の新十津川駅で、地元有志が鉄道ファン向けにきっぷを販売した。JR北海道から正式に購入し、「ガチャガチャ」などと呼ばれるカプセルトイの自販機できっぷを販売するというユニークな手法で話題になったが、JR北海道から中止を求められた。これは観光ビジネスにとって教訓になりそうな事例だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.